2024.07.12 【やさしい業界知識】スーパーコンピューター

スーパーコンピューター「富岳」

世界規模で技術競争進む
富岳でLLM開発の動きも

 膨大な計算をとてつもない速さで行うスーパーコンピューター。日本国内では、富士通と理化学研究所が共同開発した「富岳(ふがく)」が有名だ。計算速度は毎秒44京2010兆回。

 新型コロナウイルスが感染拡大した際には、マスクがせきの飛沫(ひまつ)をどのくらい防ぐのか、富岳を使ってシミュレーションした結果に基づき、マスク装着効果が実証されたことは記憶に新しい。

CPU倍増

 高速計算を可能にするのが約16万個ものCPU(中央演算処理装置)だ。2019年まで稼働していた富岳の前世代機「京(けい)」の約8万CPUから倍増され性能も飛躍的に向上した。

 富岳は、CPUが二つ乗った台(CMU)が24個ずつ大きな台(シェルフ)に固定され、1筐体(きょうたい)にはシェルフが8個(384CPU)入っている。その筐体が約400個で構成される。設置にはサッカーコート半面分ほどの面積が必要となる。

 富岳は省エネランクも世界上位に位置するが、その電力量は1時間当たり30MW。4人家族が1カ月に使うとされる毎時400kWの6年分に相当する。複数のスパコンを使用して複雑で大規模な計算を処理するハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)にも膨大な電力を要するため、低消費電力化が喫緊の課題となっている。

 急速に普及する生成AI(人工知能)に注目度は移りつつあるが、スパコンの処理能力が世界規模でランキング化されていることからも分かる通り、スパコン技術は世界各国がしのぎを削る最先端分野だ。

 計算速度の速いスーパーコンピューターを作ることで、より速く広い分野で研究を進めることができ、今まで解決できなかった複雑で高度な課題の科学的な解明も期待できる。スパコンの研究・開発を通じて、関連する産業界全体の底上げが図られ、産業に応用されることで国際競争力の強化につながる。

 富士通や理研は東京工業大学などと連携し、富岳を使って生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)の開発に成功。「Fugaku-LLM」として専用サイトなどで無償公開し、国内企業や研究機関による生成AIの開発に活用してもらっている。

量子コンとの違い

 一方で、スパコンでも時間がかかる計算を高速に実行できる「量子コンピューター」とは計算の原理が違い、それぞれ得意分野も異なる。

 スパコンは、従来のコンピューターと同様、電気信号を使って0か1かのビットで情報処理して計算。天気予報や気候変動などの分野で強みを発揮する。一方、量子コンピューターは、0と1の両方が同時に存在する量子力学的な現象である「重ね合わせ」と物体が障害物を通過することができる「トンネル効果」を利用した計算を行い、化学や材料科学、金融などの分野で問題を解くことができる。

 ただ量子コンピューターは開発途上であり、実用化にはまだ時間を要するため、両者の共存はしばらく続くだろう。

(毎週金曜日掲載)