2024.12.13 【育成のとびら】〈39〉課長も部長も管理職の悩みは「部下育成」 解決の突破口とは
「ミスター・チームリーダー」という小説をご存じだろうか。作者の石田夏穂さんは現役の会社員で、デビュー作は芥川賞にノミネートされた気鋭の作家だ。
最新作のこの作品は、大手リース会社の係長に抜擢された主人公がストイックに仕事とボディービルにまい進する様子を描く一人称小説。
理想の組織づくりを目指すものの、真面目がゆえに上からも下からも振り回される中間管理職のつらさと危うさが浮き彫りになる物語は、読者にさまざまな感情を呼び起こしそうだ。
役職者は「管理職」と一口にくくられることが多いが、経験年数や役職によって、求められる役割や抱える悩みは異なるだろう。ミスター・チームリーダーのように抜擢されたばかりの係長と、管理職としての経験が長い部長では、それぞれの課題と悩みは異なってくるはずだ。
当社ALL DIFFERENTは、ラーニングイノベーション総合研究所とともに経年で「管理職意識調査」を実施している。今回、初めて管理職の経験年数と職位でステージを分けて分析を行った。
調査期間は2024年5月20日~7月17日。質問に回答した管理職415人を、「新任管理職」(管理職に就任して1~3年目の課長クラス)、「ベテラン管理職」(同4年目以上の課長クラス)、「幹部候補」(部長クラス)に分類し、内容を分析した。
その結果、それぞれの層で悩みについて共通点と差異が表れたが、今回は共通の課題を取り上げる。
調査で「管理職としての悩み」を質問したところ、全てのステージで「部下の育成」が断トツとなった。「部下の育成」は過去の管理職意識調査においても常に1位だ。
部下育成の悩みを解消するために「努力していること」を質問したところ、全てのステージで「部下と業務時間に積極的にコミュニケーションを取る」や「部下からの意見に積極的に耳を傾ける」「部下に期待や役割を伝達する」などに多くの回答が集まった(図)。
一方、新しい知識・スキルを習得するために「セミナーを受講する」「書籍・雑誌・新聞を読む」「ネットメディアを閲覧・視聴する」といった回答や、「部下育成の推進体制を構築する」といった回答は、非常に低い割合だった。
育成の突破口
調査から、多くの管理職が部下育成の悩みを解消しようと、部下との関わり方を意識して行動する様子が読み取れる。
しかし、実際は部下とのコミュニケーションに心を砕きつつも、「本当にこれで良いのだろうか」と手探りで関わることに終始し、知識・スキルのインプットや育成の仕組みづくりなどへの関心は低かった。
このことから知識やスキルの習得が不足していることが推察され、まずは部下の成長を促すコミュニケーションや傾聴のポイント、部下に期待を伝える手順など、正しい知識とスキルの習得が部下育成の悩みを解消する突破口になりそうだ。
もちろん育成の課題を管理職一人で解決するには限界がある。人事と管理職が協力して全社的な育成の仕組みの構築と見直しをするとともに、部署内で育成推進チームを立ち上げて育成方法やアプローチを検討すればスピード感を持って新たな展望を得ることもできるだろう。
部下育成で悩んでいる管理職は、目の前の部下との関わりだけにとらわれず、正しい知識・スキルの習得や、育成の仕組みづくりについて検討してみてほしい。(つづく)
〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉
【次回は12月第4週に掲載予定】