2024.12.12 デザイン理論で新用途創出、方法論から半導体産業を変革する 東京科学大 大橋匠准教授に聞く

「半導体の新産業を創出することで実現する『ありたい未来』を考えていく」と語る大橋准教授

東京科学大は「集積Green-niX研究・人材育成拠点」として半導体産業のGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みも進める東京科学大は「集積Green-niX研究・人材育成拠点」として半導体産業のGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みも進める

 半導体の新しい使い道を作る――。政府による大規模な投資が進む半導体業界だが、長期的な成長にはこうした視点も重要になる。しかし、「何にでも使える半導体だからこそ、何に使うべきかわからない」という面も。新産業をイチから作り、社会に定着させる筋道そのものに着目し、その研究と実践により業界を盛り上げようとする動きがある。取り組みを主導する東京科学大学の大橋匠准教授に話を聞いた。

 ―半導体分野とどのように関わっているのでしょうか。

 大橋准教授 政府も支援するラピダスや複数の国立大学が参画する研究機関「最先端半導体技術センター(LSTC)」の新産業創出ワーキンググループの座長を昨年から務めている。その実践の中で専門分野の研究も進めている。

 ―研究する専門分野は何でしょうか。

 大橋准教授 「トランジションデザイン」というものだ。現在の社会システムは持続不可能なものだという前提に立ち、それを変革するためのデザインの方法論を考える。文理融合型でデザイン理論に属する分野になる。

 この分野は「マルチ・レベル・パースペクティブ」と呼ばれる理論を採用する。そこでは一つの社会システムを「ランドスケープ」「社会技術レジーム」「ニッチ」の三つのレベルに分ける。経済安全保障やSDGs(持続可能な開発目標)といった、システムの背景にあり外圧として作用するのがランドスケープ、市場や支配的なテクノロジー、文化、価値観などで構成されるルールの束が社会技術レジーム、研究開発やスタートアップの段階での技術やアイデアがニッチに当たる。ニッチをどのように新しい社会技術レジームとしていくかの筋道を考えるのがトランジションデザインだ。

 客観的な立場から分析するだけではなく、自らも社会変革の主体として参加するのも研究の特徴だ。

 ―具体的な取り組みは。

 大橋准教授 ニッチに当たるディープテックの起業家や研究者を集め、彼らを「フロントランナー」とし、ともに半導体の新しい用途を模索している。

 今はフロントランナーへのインタビューにより業界の全体像を整理して把握し、課題を探っている。来年1月にはフロントランナーとワークショップを開き、長期的な視野のもと半導体分野でどういう新産業が生み出せるか話し合う予定だ。約30人いるフロントランナーは、省庁やメディア、ベンチャーキャピタルなどからさまざまな関係者を集めた。

 ―半導体業界のフロントランナーが抱えている課題はありますか。

 大橋准教授 資金調達面の問題がある。そのため、ベンチャーキャピタルもフロントランナーとして引き入れ、ともに考えることとした。

 また、半導体は何にでも使えるからこそ、業界内ではデータセンターやエッジAI(人工知能)といったわかりやすい用途ばかり目につきやすく、新産業に結び付きづらいという課題もある。今回はプロトタイプ的に医療や宇宙などの次世代半導体が活用できる周辺分野からもフロントランナーを集めた。異分野から見れば、半導体は彼らが抱える持続不可能な社会技術レジームの変革を導く分野といえる。

 ―ワーキンググループの軸である人材育成に関してはいかがですか。

 大橋准教授 そもそも新産業を作るエコシステムがないところからのスタートなので、トランジションデザインの実践と並行して進める必要がある。今は実践面に注力している段階だが、今後フロントランナーとともに教育工学的にプログラム設計を進めることも考えている。

 ―LSTCと歩調を合わせるラピダスの動きをどう捉えていますか。

 大橋准教授 日本の半導体業界が凋落している状態を社会技術レジームだと考えれば、それを価値のレベルから転換しようとするラピダスの動きはトランジションデザインの実践そのものと言える。ワーキンググループの活動も大枠はその方向性に沿ったものだ。

 ―今後の展望は。

 大橋准教授 フロントランナーを集めて何が起こるかはまだわからないが、半導体の新産業を創出することで実現する「ありたい未来」を考えていく。新産業の種を待ちそれをフックアップするだけでなく、大きなルール作りまで見据えて取り組みを進めたい。