2025.01.10 【放送総合特集】25年 年頭所感 日本放送協会 稲葉延雄会長
稲葉 会長
NHKと民放の二元体制維持
情報空間の健全性確保
今年は、日本で放送が始まってから100年という大きな節目を迎えます。1925年(大正14年)3月22日に、NHKの前身の一つである東京放送局が、現在の東京都港区芝浦にあった学校の図書館の一角からラジオ放送を開始しました。その1年半前に発生した関東大震災で根拠のない流言飛語が広がった反省から、確かな情報を届ける手段が必要との思いが人々の間に広がった結果、放送という新たなメディアのスタートにつながったものと承知しています。
それから100年という年月を経た今、放送開始の原点に改めて思いを致すべき状況になっていると強く感じています。デジタル化の進展によって社会の利便性が大いに高まった一方で、インターネット空間は、人々の注目や関心をいかに集めるかというアテンション・エコノミーに支配されて非常に偏った情報空間となり、社会にさまざまな影響を与えています。100年前の人々が心から希求したように、確かなよりどころとなる情報に対するニーズは今ますます高まっていると言って過言ではないでしょう。
こうした中で今年10月からは、インターネットを通じた番組や番組関連情報の配信がNHKの必須業務に格上げされます。100年にわたって放送を主な業務としてきたNHKとしては、まさに「歴史的な転換点」を迎えます。正確で信頼できる情報やコンテンツを、放送だけでなく、インターネットではその特性に合わせて提供し、インターネットを含む情報空間の健全性を確保していく。人々が「本当に知りたい」と思っていることに正面からお応えしていく。そうした「情報空間の参照点」を提供する責務をこれまで以上にしっかりと果たしていきたいと考えています。
また、民主主義の基盤である多角的な視点を確保するためには、信頼できる「複数」の情報をいつでも容易に入手できることが必要です。そのためには、今後も多様なメディアが共存して切磋琢磨(せっさたくま)し続けることが大前提となります。放送で培ってきた民間放送事業者との二元体制を維持し、NHKと民放の情報やコンテンツを全国あまねく安定してお届けしていけるよう、放送ネットワークの維持・効率化に向けた取り組みなど「信頼できる多元性確保」への貢献も進めてまいります。
NHKが次の100年も、公平公正で確かな情報や豊かで良い番組・コンテンツを間断なくお届けすることで視聴者・国民のお役に立ち、ひいては日本や世界の民主主義の発展に貢献し続けていけるよう、今年も役職員一同、全力で取り組んでまいります。