2025.02.07 【育成のとびら】〈43〉「期待の伝達」とサーベイ導入で、管理職の役割認識に変化
本連載39~42回で、経験年数と職位によって管理職の異なる悩みについて取り上げてきたが、全ステージを通して管理職としての悩みのトップは「部下育成」だった。
今回は、管理職のマネジメント力強化を目指し、人材アセスメントを活用して管理職の役割認識を醸成した、小売業の事例から課題解決のポイントを探ってみたい。
この企業は、一般消費者向けの店舗を複数展開しており、店長は営業成績が優秀な人材が選ばれていた。そのため店長は営業数字への意識は強いものの、プレーヤーから管理職へ意識の転換ができておらず、部下育成やチーム全体で成果を創出できる仕組みづくりなどの優先度が下がってしまっていた。
自他評価の差に着目
同社は、これら課題を解決する一歩として、店長にマネジメント意識を高めてもらうための360度サーベイを導入することを決めた。360度サーベイとは、対象者の行動や周囲に与える影響について、経営陣や上司だけでなく、同僚、部下などさまざまな視点から多面的な評価をするもので、今回はリーダーとしての行動を自己評価と他者評価の2軸で診断した。
サーベイ実行後、自己評価と他者評価で差が表れた項目に着目し、差が出た理由を考えるとともに、自身の行動を振り返ってもらうワークショップを実施。経営陣からは、改めて「会社が求める役割」や「会社からの期待」を伝達するための面談も行った。
結果、店長に求められる行動や役割と現状のギャップを可視化できるようになった。店長自身もマネジメントに対する意識が高まり、個々の課題に合わせたスキルアップへの具体的な取り組みを推進できた。さらにサーベイや面談を通して、経営陣や各店長、各営業スタッフが、業務でさまざまな改善と工夫をしていることに気づくきっかけにもなったという。
その後は、個々の良い取り組みを毎月の店長会議で共有するようにした。実際、各店長からは「再現性の高い仕事を増やせるようになった」「他店舗で成功したことを自店舗でも展開したことで、業務効率が向上した」「チームでの成果創出ができるようになった」といった声が出るようになり、さまざまな変化が各店舗で起きた。
求める役割の伝達
今回は、単にサーベイ評価で個人の課題を指摘しただけでなく、面談で目指すべき姿を伝達したことも成果につながった重要なポイントだ。
360度サーベイなどの人材アセスメントは実施することが目的ではなく、実現したい姿に近づくためのツールに過ぎない。目指すべき姿や期待する行動が伝えられていなければ、課題を克服しようという前向きな姿勢は生まれにくい。
同時に評価後のフォローアップなども含めた取り組みがあらかじめ設計されているかどうかも重要になる。アセスメントを実施した後のフォローアップの仕組みがなければ、管理職が疲弊してしまうからだ。この企業はアセスメントからフォローアップまでの流れをつくったことで成果につなげたといえよう。
次回から、能力開発や後継者育成にも大きな影響を与える人事評価について取り上げる。(つづく)
〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉
【次回は2月第4週に掲載予定】