2025.05.23 「まるで生きている家」 テクノロジーで暮らしと自然を調和 東京に「未来の住宅」登場

木漏れ日のようにゆっくりと光が動いている室内照明

住宅街にたたずむアイヴィハウス住宅街にたたずむアイヴィハウス

自然を感じさせる構造へのこだわりを語る石黒氏自然を感じさせる構造へのこだわりを語る石黒氏

家の外には、室内の照明や音響を制御している基盤を格納した専用スペースがある。家の外には、室内の照明や音響を制御している基盤を格納した専用スペースがある。

 3月、東京都杉並区の閑静な住宅街の一角に「ivi house(アイヴィハウス)」が竣工した。ヒノキのような木の香りに満たされた部屋に、かすかに鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が廊下を照らす。これら自然の演出に、最新テクノロジーを活用している。

 アイヴィハウスは、「未来の住宅」の実現を目指すプロジェクトの一環。長谷工コーポレーションと細田工務店(東京都杉並区)、ロボット工学の第一人者で大阪大学大学院教授の石黒浩氏、「所作学」を研究するクリエイティブディレクターの菊池あかね氏らが共同で完成させた。

 2階建て3LDKのアイヴィハウスのコンセプトは、家の中で自然を感じること。住む人の心を豊かにすることを目指す。家全体の照明や音響をプログラミングで制御し、人の感性に働きかける仕掛けを施している。

 照明は、光らせ方にこだわった。人が照明のスイッチを入れる前に、動作を感知して動線上の空間の照明が自動でゆっくりと点灯する。

 長谷工グループの研究所で、人が心地よく感じる照明の揺らぎの幅や速さを研究し、実装した。照明の国際通信規格「DALI(ダリ)」に対応するHelvar社のシステムを活用し、揺らぎのプログラミングを一つずつ打ち込み、制御盤で管理している。

 鳥のさえずりや雨の音など自然を感じさせる8種類の音も、家の天井に埋め込まれた16チャンネルのスピーカー16台から、太陽や人の動きに応じて変化した音が流れる。マルチチャンネルのシステムを取り入れることで、リスニングポジションが変化しても立体的な音に聞こえるようにした。

 香りも、生活リズムを整える重要な要素だ。1階のホールと2階のリビングダイニングキッチンの天井に1台ずつ、香りを噴霧する機器を埋め込んだ。

 アロマ製品の開発から空間プロヂュースまで手掛けるアットアロマ(東京都世田谷区)とコラボレーションし、朝と夕に1階と2階で香りを変えている。

 現代の「外の世界とは別の世界を家の中に作っている」家ではなく、家の外に広がる自然を感じる空間を再現した。

 石黒氏は「家とアンドロイドは、人に働きかけるという面では同じ。ロボットも生きているように感じるなら、家も生きているように感じる」とし、「テクノロジーが進化すると、日本の伝統を推し進めて家の中で自然を感じることができる」と話す。

 テクノロジーによる制御で、便利さの追求ではなく、自然を感じる空間に仕上げたアイヴィハウス。だが、現状の住宅市場では、家電や設備のテクノロジーと家の連携は発展途上だ。長谷工コーポレーション設計部門エンジニアリング事業部の常務執行役員事業部長の堀井規男氏はスマートホームの国際的な通信規格「Matter(マター)」の登場で、「素地が整ってきた」と期待を寄せる。

 今回照明設備を制御しているダリのシステムについても、「一般的な言語でコントロールしている。今後の拡大に向けて、準備ができているという状態」(サウンドアーティストの佐久間海土氏)と、異なるメーカーの製品でも一つの制御システムでコントロールできる強みがある。

 今後のアイヴィハウスの展開は未定としながらも、マンションや戸建てでのブランド化も視野に入れているという。