2025.08.29 量子材料「トポロジカル物質」で省電力化 東大発メモリーが世界市場へ
「日本には技術シーズがたくさん眠っているのに、イノベーションの主導権を握れていないことに課題を感じていた」とTopoLogic参画の経緯を語る佐藤氏
東京大学発のスタートアップ企業TopoLogic(トポロジック、東京都文京区)は、特殊な物理効果を発生させる新素材「トポロジカル物質」を使ったメモリー「TL-RAM」の開発が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による公募事業に採択されたと発表した。最先端の量子科学から派生した材料をメモリーに実装するため、実証チップの試作を始める。同社の佐藤太紀社長に話を聞いた。
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トポロジカル物質は、位相幾何学(トポロジー)の観点から従来とは異なる性質を示し、特殊な電子バンド構造を持つ。日本では、東大大学院理学系研究科の中辻知教授がトポロジカル物質の実験物理に関する第一人者。トポロジックは、その研究の事業化に向けて21年に設立された。
TL-RAMは同社独自のメモリーで、電子の磁石的性質を用いてデータを記録する「MRAM(磁気抵抗メモリー)」の材料にトポロジカル物質を使う。基本的な動作原理はMRAMと同じで、磁化方向による電気抵抗の差異を利用する。
書き込みコストを削減
トポロジカル物質を使えば、より小さい電流で磁化方向を切り替えられ、書き込みコストの大幅な削減につながる。書き込み時間の短縮により、動作を高速化できるほか、耐久性にも優れる。
佐藤氏は「MRAMで使われるような強力な磁石を、ほとんどくっつかないような磁石に置き換えるイメージ」と説明する。
TL-RAMの用途として想定するのは、データセンターだ。サーバー内部でデータを一時的に保存するDRAMやSRAMといった揮発性メモリーの代替を狙う。メモリーの省電力化を実現できる特徴を生かし、データセンターで消費する電力の削減を後押ししたい考えだ。半導体メーカーへのIP(知的財産)の提供というビジネスモデルを計画している。
従来のMRAMは、データセンター向けメモリーに匹敵する高速性能がなく、組み込み向けの用途が中心だった。TL-RAMは、その記録媒体を代替できるだけの性能を備える。省電力性能については、「TL-RAMを搭載すれば数10倍~100倍の電力を削減できる」(佐藤氏)という。
実用化視野に試作段階へ
トポロジックは現在、TL-RAMの本格的な試作を始める段階だ。今回採択されたNEDOの支援事業で26年までに実証チップの試作を行い、その後28年をめどに実用化を想定した容量のチップの試作を行う。30年前後には、顧客であるチップメーカーを通じて最終製品への搭載を目指す。
複数のチップを単一のパッケージに集積する「チップレット」の技術も追い風で、プロセッサーとTL-RAMを別工程で製造し後工程で統合できる。
佐藤氏は「グローバルなサプライチェーンに組み込んでいき、世界と戦えるオンリーワン技術を作れると示したい」と力を込める。TL-RAMに挑む同社の歩みは、日本発の材料科学が半導体産業で存在感を発揮する一例となるかもしれない。
<執筆・構成=半導体ナビ>