2025.10.23 工場ロボットの“接触事故” 超音波で防げ ネクスティが高精度位置センサー

ZEROKEYを用い超音波でAGVと人の装着するタグとで接触回避を図る実演のようす
ZEROKEYは超音波でAGVが事故に巻き込まれるのを防げる

 工場や倉庫を走り回る無人搬送車(AGV)は、今や人手不足に悩む日本の製造現場を効率化するデジタル変革(DX)になくてはならないものになりつつあるが、普及に伴って新たな問題も生じている。フォークリフトがAGVをうっかり轢いてしまうといった、いわば「ロボットの接触事故」だ。豊田通商グループのエレクトロニクス商社ネクスティ エレクトロニクスは超音波を使った高精度な屋内位置センサー「ZEROKEY(ゼロキー)」を駆使したソリューションを提案している。


■±1cmの高精度測位

ZEROKEYを使ってAGVと人の接触回避を実演するネクスティ担当者
ZEROKEYは超音波を使ってAGVと人やフォークリフトとの衝突を防ぐ(10月、千葉市)


 カナダのスタートアップZeroKeyが開発した独自の超音波技術を採用。誤差±1cmの精度でセンサーから20mまでの範囲にある機器や設備を測位する。X、Y、Z軸から成る3次元での空間認識が可能な点も特徴だ。測位結果は2.5GHz帯の電波で通信する。 超音波に関し許認可の取得は不要な出力で、電波による通信機能は日本の技術基準適合証明を取得済み。屋内測位の分野ではBluetooth Low Energy(BLE)のチャネルサウンディング、超広帯域無線通信(UWB)といった電波を使った方式も急速に発展しているが、ゼロキーは精度の面で優位性があり、さらに相互に補完も可能とする。


■数百万円のAGVをフォークリフトで轢く事故が問題に


 ネクスティは2022年から国内唯一の代理店としてゼロキーを取り扱い、幕張メッセ(千葉市美浜区)で毎年10月に開催する先進技術の展示会CEATECにも出展。好評を博してきた。25年の会場で担当者に話を聞くと、最近高まっている需要は接触事故の防止。工場などの悩みとして「フォークリフトがAGVを轢いてしまう事故が増えている」という。AGVが工場などで非常に多く走り回るようになったことが背景にあり、一方でフォークリフトを操作する側にとって「AGVは低い位置を移動していて見えにくい場合がある」(ネクスティ)。AGVは1台の価格が数百万円に達する場合もあり、損傷した場合の負担は小さくない。海外ではメーカーのZeroKeyに対し相談があるほか、日本でもネクスティが複数社から対策への要望を聞き取っている。


 そこで25年ノCEATECでは接触防止に重点を置いて技術を展示した。ゼロキーの部品をフォークリフトやAGV、作業者の装着するバッジなどに組み込めば、指定の距離まで接近した際に、警告を発せる。会場では実際にAGVを走らせ、人間の死角から近づいた際に光、音、振動で報せるようすを披露した。なおソフトウエアを工夫すれば、接近時に警告だけでなくAGVを制御を行うことも可能だという。


■電波と超音波で強みを補完


 もう一つ、25年のCEATECで打ち出したのは企業間の連携だ。ゼロキーの展示場所は、ネクスティも参加する位置情報関連サービスの業界団体ロケーションビジネス&マーケティングアソシエーションジャパン(LMBA Japan)の小間内で、周囲に出展した加盟各社との協力の成果を紹介した。

屋内位置情報ソリューション「マプサス」について説明する川崎重工の担当者
川崎重工が取り扱うマプサスはWi-Fiフィンガープリンティング方式で測位を行う


 川崎重工業は21年に出資した香港のスタートアップMapxus(マプサス)の位置情報ソリューションを展示。これはWi-Fiフィンガープリンティングと呼ぶ方式を用い、Wi-Fiの電波の受信信号強度(RSSI)を各地点で計測し「指紋」のように記録し最大3m~の精度で測位が可能。工場やオフィスなどのより広い範囲に効率よく導入できる。同社の会場担当者は「精度が足りない部分は他社サービスと組み合わせ、屋内、屋外、そして屋内の特定の区域と段階を踏んで測位し、一カ所で閲覧、管理、分析できるかを試している」と説明した。ゼロキーとマプサスの情報を同じ操作画面で見られるようにする構想だ。

「アイフィールド」について説明するマルティスープ担当者
マルティスープのアイフィールドは屋外ではGPS、屋内ではBLEを生かした測位を行ってきた


 マルティスープ(東京都千代田区)は工場内の作業者や設備、車両などの位置を時系列で集計、分析し業務効率化につなげられる「iField(アイフィールド)」とゼロキーの連携を既に実用化したという。同社の会場担当者は「これまで屋外はGPS、屋内は主にBLEのRSSIや信号を受信した角度による到来角(AoA)測位をラインアップにそろえてきたが、より高精度な測位ができるようになった」と語る。


 AGVとフォークリフトが行きかうような区域には超音波による高精度の測位、比較的精度が低くても問題がない場所ではアンカーノードと呼ぶ固定式の機器の設置が少なくて済む電波による測位と、複数の方式を組み合わせて導入できる。


■一種類のデータでは活用の幅狭く

シーテック出展の狙いを説明するLMBAジャパンの川島代表理事
LMBA Japanの川島代表理事は加盟各社の連携についても重視する

 LMBA Japanの川島邦之代表理事は25年のCEATEC出展について「今回は4年目で、26社と過去最多の規模」と語った。また来場者への位置情報関連サービスの紹介といった主目的のほか加盟各社をつなぐ役割にも言及。「(加盟各社は)競合である場合もあるが、一種類のデータでは活用できる幅は限られ、複数のデータやソリューションを組み合わせることでもっとこんなことができる、あの業種でも使えるといったことがある」と述べ、各社のソリューションを紹介しあったり、マッチングを行ったりといった役割も担うとし、共同出展で互いの展示を目にすることも各社の連携に寄与するとした。