2026.01.26 【寄稿】光電融合が拓くAIデータセンター市場とアンリツの最先端計測技術
生成AI(人工知能)の急激な発展は、世界のデータセンターおよび通信インフラに、これまでに例のない負荷と大きな変革をもたらしている。特に大規模言語モデル(LLM)の学習・推論では、数百億から数兆規模にも及ぶパラメーターを扱う必要があり、この処理を支えるネットワークには、従来のクラウドサービスとは比較にならない 超広帯域・超低遅延・高信頼性 が求められる。AIサーバの集積度は年々増加しており、1ラック当たりの電力要求は10年前と比べて2倍以上に達しているとされる。またAI処理は、特有の大規模メモリーアクセスやノード間通信が遅延の影響を強く受けるため、ネットワーク性能がAI全体の処理効率やコストに直結し、その構造が一層顕著になっている。
しかし、従来の電気ベースのネットワークアーキテクチャーでは、光・電気・光信号へのOEO(Optical-Electrical-Optical)変換によるロスや遅延、長距離電気配線に起因する電力消費を避けることが難しく、AI時代に必要とされる性能を維持することが年々困難になりつつある。AIの利用拡大に伴い、データセンター全体のエネルギー消費量は世界的に急増している一方、多くの国では電力供給が既に逼迫(ひっぱく)しつつあり、この状況は「AI電力制約」という新たな社会課題として認識されはじめている。こうした背景から、消費電力を大幅に削減する光電融合(Photonic-Electronic Convergence)技術を基盤とした次世代光ネットワークが世界中で注目されている。
中でも日本を中心に推進する IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想 は、光技術を中心とした未来の通信インフラモデルとして世界的に注目を集めている。IOWN の中核を担う オールフォトニクスネットワーク(APN) は、ネットワーク区間の完全光化を推進し、従来多段に存在していた OEO 変換を大幅に削減することで、伝送効率の最適化と電力消費の大幅な削減を同時に実現しようとするものだ。APN が目指す性能は従来の電気ネットワーク比で 遅延1/200、伝送容量100倍、電力効率100倍 とされ、AI基盤にとって極めて魅力的な特性を備える。
Open ZR+に対応したネットワークテスタでAPNを評価
APN の実現には、ネットワーク品質を高精度に可視化・評価する技術が不可欠であり、アンリツはこの領域で重要な役割を果たしている。Network Master Pro MT1040Aは、400GbE対応のポータブルネットワークテスターとして、遅延、ジッタ、スループット、パケットロスなど、APNで特に重視される指標(KPI)を高い精度で評価できる。また100G ZR / 400G ZR+ といった最新のデジタルコヒーレント光伝送にも対応し、マルチベンダー環境での相互接続性検証に適している。1秒周期で測定データを記録・カウントできるため、ネットワークの問題をより厳密に把握できる点も特長である。さらにアンリツ独自の SEEK(Scenario Edit Environment Kit)により、複雑な評価を事前にシナリオ化し、ユーザーは1ボタンで測定可能となる。この SEEK は実証段階・商用段階の双方で重要な役割を果たすツールとなっている(写真1)。

AIデータセンターの高速化を支える計測技術
一方、AIデータセンター内部を支える光インターフェース技術も急速に進化している。光トランシーバーは800GbE時代から1.6TbE時代に突入し、レーン速度も100G/laneから200G/laneへと移行している。この高速化に伴い、製造工程で求められる測定帯域は拡大し、PAM4信号の波形品質評価はより高度化している。アンリツはこうした要求に対応するため、BERTWave MP2110Aに100 Gbaud PAM4光信号を測定できるオシロスコープオプションを追加した。MP2110Aは広帯域サンプリングオシロスコープとして1.6T光トランシーバーの量産用に最適で、次世代光信号の品質指標であるTDECQ (Transmitter Dispersion and Eye Closure Quaternary)を高い再現性で評価できる。4チャネルの測定ポートにより、1.6T(200G×8)光トランシーバーの出力を2台で同時測定でき、生産ラインの効率化と品質向上に大きく寄与する(写真2)。

光電融合技術は、ネットワークのみならずコンピューティングにおいても注目されている。たとえば、CPUやスイッチASICに光インターフェースを用いた入出力技術(光I/O)を直接統合し、従来数十cmから数m必要だった電気配線を短縮することで、消費電力の大幅な削減が期待されている。その中でも、 Co-Packaged Optics(CPO) はデータセンタースイッチやAIアクセラレーター間リンクの高速化に不可欠な技術として注目されている。また、コンピューター内部の高速データ通信規格を策定する業界団体PCI-SIGでは、信号の光伝送を視野に入れた規格検討が始まっており、将来のサーバーアーキテクチャーは電気配線を最小化し、光インターフェースを中心としたより高効率な構造へ進化すると予想される。
こうした光電融合技術の発展に伴い、システム全体の性能を最大化するためには、高速信号の劣化要因、ジッター、BERなどを正確に評価する高度な計測技術が不可欠である。特にPCIeは高速な物理層信号だけではなく、レイテンシーを考慮した複雑な論理層処理が絡み合うため、問題発生時の原因特定の難易度が高まり、問題の切り分け手法がより重要になる。アンリツの Signal Quality Analyzer-R MP1900Aは PCIe 6.0 コンプライアンス試験に対応し、2025年8月に発売した Sequence Editor オプション を活用することで、コンプライアンステストで定義される正常系に加え、異常系の検証も可能であり、さらには負荷試験シナリオを直感的なGUIで容易に作成・実行できる。これにより、設計段階から実装検証まで、柔軟かつ効率的な評価を実現している。さらに、PCI-SIGでの長年の活動を通じて蓄積してきた論理層の処理技術によって、物理層と論理層の両面から問題を切り分ける手法を提供することで、複雑な不具合解析作業を迅速化する。加えて、最大4チャネルの高品質64Gbaud PAM4電気信号を1台で出力でき、FECパターンを用いたジッタトレランス試験やエラーディテクターのキャプチャー機能によるFEC解析にも対応する。これらの機能は、光と電気が混在するインターフェース特有の問題解析に非常に有効であり、光電融合モジュールや次世代アクセラレーター技術の開発において大きな価値を持つ(写真3)。

AIデータセンターの発展には、広帯域化・低遅延化・省電力化という相反する要求を同時に解決する必要がある。その中で、光ネットワークおよび光電融合技術はこれらの要件を満たす有力な候補として世界中で開発が進んでいる。
アンリツはMT1040A、MP2110A、MP1900Aといった最新の計測ソリューションを通じて、AI時代の実現と普及に必要な測る技術を提供し続けている。IOWN/APNが描く「光でつながる未来通信」、そしてCPOや光I/Oが切り開く「光技術を活用した未来コンピューティング」。この大きな技術潮流を支える高精度計測技術は、AI社会の基盤を形成する重要な柱であり、アンリツは今後もその中核プレイヤーとして革新的ソリューションを提供し続ける。







