2026.03.30 【タイ経済最新動向企画】AIデータセンター関連の投資急増、産業構造の転換進む 

アジアのモノづくり立国として経済成長を遂げてきたタイ。産業構造の転換も進んでいる

「次は半導体・先端エレクトロニクスの誘致拡大へ」

 アジアのモノづくり立国として経済成長を遂げてきたタイ。1980年代から外資による直接投資が急増し、輸出志向型企業の進出が急拡大した。特に自動車産業は、車両から車載機器、電子部品などサプライチェーンを構成する企業が生産拠点を構え、一大生産地として成長。産業集積は自動車産業に留まらずとどまらず、電機・電子、精密機器、産業機器、化学材料など幅広い分野の製造業がタイに進出している。労働者の技術習熟度も高く、安定した物流網やインフラを完備するなど製造業で不可欠な要素もタイの強み。グローバル生産拠点としての側面に加え、近年では産業構造の転換も進む。新たな動きを見せるタイの最新動向をレポートする。

 JETROによると6083社(25年2月時点)の日系企業がタイに進出している。近年では米中貿易摩擦の影響もあり、日系のみならず海外資本の企業も含め中国からASEAN地域への生産移管を進めている。そうした中でタイは他ASEAN諸国に比べて、安定した生産を可能にする地盤が整っており、生産拠点の投資先として注目されている。中国からの生産移管を背景に外国資本によるタイへの直接投資額は上昇している。

 生産拠点としての重要度が増す一方、製造業を主体とする従来の産業構造からの転換を目指す動きも出ている。タイ政府は持続的な経済成長を実現するためのビジョン「Thiland4.0」を2016年に策定した。産業の高度化・高付加価値化を図ることで経済成長を実現し、いわゆる「中所得国の罠」を回避しようという狙いだ。

 Thiland4.0では①次世代自動車②スマートエレクトロニクス③メディカル&ウェルネスツーリズム④農業・バイオテクノロジー⑤食品関連⑥ロボティクス⑦航空⑧バイオ燃料・バイオ科学⑨デジタル⑩メディカルハブ⑪防衛⑫教育・人材開発――という12の重点産業への投資拡大を目指している。この取り組みを加速させるため、タイ政府はチョンブリ、ラヨーン、チャチューンサオの東部3県に「東部経済回廊(EEC:Eastern Economic Corridor)」を設置し、重点産業の誘致を積極的に推し進めている。

 これらの政策は着実に成果を上げている。その顕著な例がデータセンターをはじめとするデジタル産業投資だ。AI(人工知能)の世界的な普及拡大を追い風に、現在タイではデータセンターの建設ラッシュが続いている。GoogleやAmazon(AWS)をはじめとする米テック大手のほか、Alibaba、ByteDance(TikTok)などの中国勢も大型の投資計画を発表し順次建設を開始。日系企業ではNTTデータやKDDIが投資を行い、既にデータセンターを稼働させている。

 こうしたデジタル産業投資を追い風に投資は急増。25年の投資申請金額は前年比67%増となる1兆8766億バーツ(BOI統計による)と過去最高の申請額を記録した。投資承認ベースでも同66%増の1兆6158億バーツと計画から実行段階への移行が順調に進んでいる。国・地域別の申請金額ではシンガポールが約40%を占め、香港、中国が続き日本は第4位。シンガポールからの投資の大半は、欧米のハイテク企業やクラウド事業者によるデータセンター案件。地域統括拠点としてのシンガポールを経由した“テックマネー”がタイのデジタルインフラに流入している。

 JETROバンコクの野田芳美ディレクターは「中国からの生産移管もあるが、現在タイへの投資をけん引しているのはデータセンター関連の投資。データセンターに格納されるAIサーバー向けの電子部品・材料関連の投資も伸びており、プリント配線板など増産投資も増えている」と話す。

 デジタル産業の投資拡大を契機に、新たな産業構造への転換を加速させるタイ政府。次なるステージとして投資促進を目指すのが半導体・先端エレクトロニクス分野だ。AIデータセンターにおける演算処理を支える最先端半導体を誘致することで、半導体、電子部品、AIサーバー、データセンターと一気通貫のバリューチェーン構築を目指す。

 タイの半導体産業は後工程が中心。同様に後工程を中心としながらも設計・製造・R&D(研究開発)の統合度を高めるマレーシアやシンガポール、先進的な後工程の導入が進みIC設計の育成にも取り組み始めているベトナムなど、他ASEAN諸国に比べるとタイはやや出遅れ気味。こうした状況を巻き返そうと政府主導による新たな取り組みが始まっている。

 タイ政府は24年10月、国家半導体・先端エレクトロニクス産業政策委員会(National Semiconductor Bord)を設置し、国内における半導体産業の変革を推し進めている。同委員会では25~29年の期間、半導体・先端エレクトロニクス分野で5000億バーツ(約2.3兆円)の海外直接投資を誘致し、約8万人のハイテク人材を育成する目標を掲げている。

 こうした一連の取り組みにより24年10月、PPT(旧タイ石油公社)とHANAマイクロエレクトロニクスが合弁でSiCウエハー工場の設立を発表。同工場はタイ初の前工程工場として注目を集めており、2027年の生産開始を予定している。24年12月には台湾の鴻海精密工業傘下の半導体製造装置メーカー・Foxsemicon Integrated Technologyが工場2棟の新設を発表。25年1月には独インフィニオンが後工程工場の新設を発表し、現在第1棟目を建設中。26年中旬に完成し、年内の生産開始を予定している。

 アユタヤ銀行(三菱UFJフィナンシャルグループ傘下)の中山雅史執行役員日系営業部長は「まずは産業集積度が高いEVやデータセンターと親和性が高いパワー半導体やセンサーなどの投資を促進するのがタイ政府の方針。中長期的戦略として50年までに2.5兆バーツ(約13兆円)の半導体関連投資を呼び込み、ハイテク人材23万人を育成する目標を掲げている。デカップリング(地政学リスク)、先端技術の急拡大、各国政府による強い誘致政策が重なり後工程を中心とした半導体投資はASEAN・インドに移行しつつある。今後、50年までアジアでの半導体投資はさらに高まる見込み。当行はタイ政府とも強固な関係性を持ち、タイの半導体投資を日本から呼び込むAttract(誘致)活動を先導。MUFGの半導体ネットワークを生かしつつ、“アトラクトバンカー”としてタイ・日本両国の発展に貢献したい」と話す。アユタヤ銀行は三菱UFJ銀行傘下のタイ大手銀行の一つ。タイ政府に対し半導体・先端エレクトロニクス分野における政策提言を行っている。

 現在、データセンターを中心とするデジタル産業の投資拡大により、従来型の産業構造から転換を図るタイ。デジタルハブとしての側面と半導体・先端エレクトロニクスなどハイテク産業を支える製造拠点という両面での強みを生かし、さらなる成長を目指す。