2021.06.23 洋上風力の動き本格化 五島市沖で初の事業者決定

五島市沖の海域付近に、環境省が設置した実証事業機(西山芳一さん撮影)

シンポジウムでは、パネルディスカッションで活発に議論されたシンポジウムでは、パネルディスカッションで活発に議論された

パネラーには、オンラインで出席する参加者もいたパネラーには、オンラインで出席する参加者もいた

 カーボンニュートラル社会に向けて、海上に風車を設置する再生可能エネルギー、洋上風力発電の動きが本格化してきた。海に囲まれた日本での「切り札」とされ、今月中旬には一般海域としては初めて長崎県五島市沖で事業者が決定。先行する欧州などと違い、遠浅の少ない日本特有の技術開発への期待もかかる。

 環境省は5日に洋上風力発電のシンポジウムを開催した。海の利用の統一的なルールをまとめた再エネ海域利用法において、国が開発を認める促進海域に指定されている五島市の漁業関係者らも出席した。

 市再生可能エネルギー推進室の担当者は「特に漁業関係者の理解が重要。洋上風力発電の建設が始まっても対話などを大事にして五島モデルを確立したい」と力を込めた。環境省地球温暖化対策事業室の担当者は「化石燃料の時代には不利だった離島や過疎地が、再エネの時代には、世界や日本で最先端の地域になる。国として最大限バックアップしていく」と激励した。

 2019年4月に施行された同法に基づき指定された促進海域はほかに、秋田県沖2カ所、千葉県銚子沖の3カ所。長期間の発電を可能とするため、海域を30年間占有できるようにし事業者が開発しやすくした。

 洋上風力発電は、一部の岸に近い港湾などで建設が進むが、膨大な普及を目指すには一般海域での開発が欠かせない。11日、この海域で開発を進める事業者が選定され、経産省や国交省が公表した。同法施行後、国内では初となる。

 選定されたのは、準大手ゼネコンの戸田建設を代表とするグループだ。グループには石油元売り最大手のENEOS(エネオス)や石油開発国内最大手のINPEX、大阪ガス、関西電力、中部電力と大手エネルギー会社が名を連ねる。

 戸田建設によると、沖合7~13キロメートルの深さ100メートル前後の海域に風車8基を建設。出力合計は16.8MWになる計画で、九州電力に売電する。同海域では既に環境省が実証機を設置。現在は五島市が譲り受け、同社グループが運営管理している。「発電の実績も重ねてきた。その延長として新たな設備も建設したい」(同社担当者)。

 洋上では、陸上での風力発電に比べて、設備利用率に影響する風況が良いことなどから、設備の大型化が進展。陸上の風車の羽は直径約100メートルで出力2.7MW程度が平均だが、洋上では羽が約160~170メートルに及び、8.2MW程度に達するという。

 国は20年12月に公表したグリーン成長戦略で、初めてとなる洋上風力発電の導入目標を策定。40年までに30~45GWへと拡大させる計画だ。

期待がかかる浮体式

 一方、世界ではイギリスやドイツ、デンマークなど欧州が先行。4500基を超える風車を稼働させ、技術ノウハウの蓄積も進んでいるという。

 世界で実用されている洋上風力の99%以上が海底に風車を固定する「着床式」だ。海上に浮かせる「浮体式」と比べて、深さ50メートルほどの海域までは着床式の方がコスト面などから適している。日本周辺でも着床式だけで、風況の良い北海道や東北、九州などを中心に「実際に建設の見込みが立つ導入量」(日本風力発電協会)が30GWに達するとの想定もあるという。

 だが、今回初の事業者が決定した五島市沖では浮体式が採用されている。遠浅の海域などが少ない日本の周辺海域では浮体式にも大きな期待がかかっており、「将来の夢が広がる決定でもある」(風力発電関係者)。浮体式の技術はまだ「世界が横一線」(環境省)とされ、現状では初期費用で2倍近く割高になるという試算もある。

 戸田建設は「浮体式のコスト面は課題だが、日本で多い地震や台風に対して技術的に有利な面もあると考えている。遠浅の少ない日本では将来的に主力になる技術だ」としている。