2021.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】 市場動向 DX
大塚商会が本社ビル3階に開設した「DXオフィス」(東京都千代田区)
DXオフィス浸透図る、自治体への導入支援を加速
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、一気に注目度が増したデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)。一方で、日本の立ち遅れも浮き彫りになった。IT各社はDXオフィスを立ち上げ浸透を図ったり、自治体への導入支援を加速させたり、9月1日のデジタル庁発足を商機と捉え、市場拡大に攻勢をかける。
国内企業がDXに取り組む契機となったのは、経済産業省が2018年9月に公開した「DXレポート」だ。古くて複雑な旧来の基幹系システムが25年以降も残った場合、毎年最大12兆円の経済損失が生まれると指摘。「2025年の崖」と名付けられたこのシナリオは、瞬く間にIT業界に広がった。
一方で、同省が20年12月に公表した中間まとめの「DXレポート2」では、2年以上経過してもDXが想定以上に進んでいない傾向が浮かび上がった。デジタル技術を活用して難局を乗り切った企業と、既存のやり方に固執する企業との差が「今後さらに大きく拡大する可能性が高い」と警鐘を鳴らした。
こうした中、IT各社はDXを商機と捉えて、導入の促進を行ってきた。
大塚商会は4月、東京都千代田区の本社ビル内に実践型の「DXオフィス」を開設。2月に都内のホテルで開催したDXの実践ソリューションフェアで関心の高かった展示を社内に常設し、多くの企業にDXの浸透を図る試みだ。
同社は、人工知能(AI)の活用や紙文書の電子化など同社が培ってきた技術を生かし、経産省が定める「DX認定取得事業者」の資格を4月に取得。DXオフィスを他社にノウハウを提供する場と位置付け、ペーパーレスやテレワークなどを実際の機器を操作しながら学ぶことができる。
コロナ禍による在宅勤務の増加で、自治体や企業間の文書の電子化とペーパーレス化が一気に普及する一方で、23年10月からスタートする品目ごとの消費税率や税額を取引時の請求書に記す「インボイス」制度や、電子帳簿保存法の改正など新たな法制度への対応も迫られている。
DXオフィスでも、こうした動きに備えて、クラウド型の電子契約サービスや電子証明書による申請を中心に、企業関係者の見学を受け入れている。オンラインでも参加できるが、多いときには1日10社が実際に現場を訪れるという。
オフィス内では、ほかにも会議システムやサイバー攻撃に備えたセキュリティーシステムなど計五つのブースが設けられ、来場する企業の業務やオフィス環境に即したテーマについて、最新のソリューションを通じて体験できる。
同社マーケティング本部統合戦略企画1課の井川雄二課長は「DXなしでも現状の仕事は進められるかもしれないが、将来を見据えれば必ず必要になる。今がDXに踏み切る分岐点」と指摘する。
加えて「DXの本質は、機器のデジタル化ではなく、仕事を変革すること。自分の仕事を改善するために何が必要かを考え、それを改善する手段がDXと捉えてほしい」と力を込めた。
遅れが指摘されている自治体のDXに取り組む動きも活発化している。
NECネッツエスアイは、自治体職員のリモートワークなどに必要なクラウドツールを自治体が安全に利用できる新たなセキュリティー基盤の提供を8月から始めた。自治体の総合行政ネットワーク(LGWAN)を通じて利用できる。
LGWANは自治体職員が業務専用で使う閉域ネットワークで、セキュリティー強化のためインターネットとは切り離されている。このため、ファイル共有ツールのBox(ボックス)といったクラウドを利用した各種ツールの導入には制約があり、自治体職員が在宅勤務を行う上での障壁となっている。
同社は自治体向けに、組織単位でクラウドサービスを利用できるセキュリティー基盤を用意。8月からテレワーク用のリモート接続システムの提供をスタート。21年度中に庁内業務や消防、防災に関わるサービスにも着手する。
将来的には、自治体基幹システムの提供も視野に事業展開を図る方針だ。
国内市場、30年度に4倍へ
日本企業のICT(情報通信技術)投資は業務の効率化を目的としたものが中心で、事業拡大や新事業の進出といったビジネスモデルの変革まで踏み込んだDXが広がっていない--。
総務省は7月末に公表した2021年版の情報通信白書で、こう指摘した。今後は、テレワークやペーパーレス化など目先の業務改善だけでなく、事業戦略などを踏まえた経営上流からのDX支援も求められることになりそうだ。
米コンサルティング大手のアクセンチュアなど、世界的な競合企業が立ちはだかるこの分野。変革期の推進役として名乗りを上げたのが、富士通子会社でDXのコンサルティングを手掛けるRidgelinez(リッジラインズ、東京都千代田区)だ。
同社の今井俊哉社長は「何かを変えないといけない、と顧客企業の一人一人が納得して思うかどうか。意識改革というキーワードが頻繁に取り上げられているが、顧客が必然性と客観性を持って腹落ちすることがDX成功の鍵を握る」と強調。「アクセンチュアと同じことをやっても、追い付くには100年かかる。グローバルな会社では手が届きにくい部分にも目を向け、日本企業の文化を理解した上でニーズを咀嚼(そしゃく)したい。その力を蓄え、グローバルに打って出たい」と野心的だ。
ITソリューション開発の日本システムウエア執行役員サービスソリューション事業本部長の竹村大助氏は「顧客企業の上流から入って、戦略に寄り添う取り組みが求められている」と話す。基幹システムをオンプレミス(自社運用)からクラウドに置き換えるといった機能面の支援だけでなく、どういった取り組みに軸を置いて戦略を展開するのか、今後の事業展開を踏まえたDXの提供が重要だと訴える。
富士キメラ総研によると、DXの国内市場(投資金額)は30年度に19年度比3.8倍の3兆425億円に達すると見込まれる。特に交通・運輸の市場規模が大きく、拡大傾向が続くと予測。製造や流通などの業界も非効率なプロセスを多く抱えており、業務改革のための投資が拡大する方向にあるという。こうした変革期を支えるIT各社の役割は一段と増しそうだ。
「デジタル庁」があす発足
デジタル政策の司令塔となる「デジタル庁」が、あす9月1日に発足する。内閣直属で首相がトップを兼ね、その下に担当相を配置。事務方トップには民間から起用する「デジタル監」を配置する。
同庁は、他省庁に業務見直しなどを勧告する権限を持ち、総合調整機能を担う。マイナンバー関係や情報提供ネットワークシステム設置管理をはじめ、情報通信技術を利用した本人確認、商業登記電子証明や電子署名、公的個人認証などを担当。国や地方公共団体が整備する情報システムの基本方針作成や推進も行う。
規模は、非常勤も含め500人程度。100~200人程度を民間から採用する予定で、給料面での優遇のほか、テレワークや所属企業との兼業も認める。
立ち上げ準備中のホームページでは「デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成(かせい)に作り上げることを目指す」として、徹底的な国民目線でのサービス創出やデータ資源の利活用、社会全体のDXの推進を通じ、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現すべく取り組みを進める、と掲げている。