2021.10.19 【CEATEC特集】キーノートスピーチ 綱川智 東芝社長兼CEO
綱川 社長兼CEO
脱炭素社会、インフラ維持 デジタル技術と共創で実現
地球温暖化による気候変動の影響は疑う余地はなく、温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラルの取り組みは急務だ。風水害、首都直下型地震、津波など自然災害のリスクが高まり、インフラのレジリエンス(回復力)の重要性も増している。
新型コロナウイルス感染拡大で社会環境は一層複雑化し、ニューノーマル(新たな日常)ではデジタルは欠かせないものとなった。
現在直面する社会課題であるカーボンニュートラルとインフラレジリエンスの解決が持続可能な社会を実現する上で重要だ。これらにデジタル技術を掛け合わせ、「エネルギー×デジタル」によって温室効果ガス排出量の実質ゼロに貢献し、「インフラ×デジタル」によって極端化する災害やサイバー攻撃に対応する強靭(きょうじん)なソリューションを提供する。培ってきた技術と顧客との共創により新しい未来を始動させることこそがわれわれの存在意義だ。
今回のCEATECで紹介するVPP(仮想発電所、バーチャルパワープラント)は、デジタル化によりエネルギーを前進させる代表例だ。太陽光や蓄電池、バイオマスなどさまざまな場所に分散するエネルギーをIoT(モノのインターネット)で束ね、各種機器をまとめて全体で一つの発電所のように機能し、電力の需要と供給をバランスさせる。
新しい技術として、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新型太陽電池の開発も進めている。軽量、薄型の上、曲げることもでき、従来設置できなかった強度の弱い屋根やオフィスビルの屋根など多様な場所に設置することができる。
世界では今、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の取り組みが進んでいるが、東芝はその先にある量子技術を活用したQX(クオンタムトランスフォーメーション)の時代を見え据えている。
現在私たちが使っている暗号技術は、演算速度を高めた未来のコンピューターによって簡単に解読される恐れがある。
東芝の量子暗号通信は量子力学に基づく新しい通信技術で、光の最小単位である光子(光の粒子)による「量子鍵」をネットワークで共有する。量子鍵は分割もコピーもできないため、もし傍受されたら確実に分かる。20年以上にわたり量子技術の研究を進め、実用化に向け開発を進めてきた。誰もが簡単に量子暗号通信を利用できるようにする量子鍵配送サービスの実現に取り組み、量子インターネットの時代に備え、量子暗号通信の実現に向けた研究開発も推進していく。
「つながる社会、共創する未来」を開催テーマとして掲げる今回のシーテックをきっかけとして、あらゆる産業を横断してさまざまな企業がつながり、カーボンニュートラルとインフラレジリエンスの実現に向けた共創が生まれることを願ってやまない。