2022.03.16 遊びではない「卓球ロボ」 オムロンが開発する理由はロボット展で最新型を初披露

エンジニアらが、楽しみつつも開発に取り組む卓球ロボ

 東京ビッグサイトで今月開かれた「国際ロボット展」の一角。入り口に近い目立つエリアで、卓球に興じているように見える人たちがいた。これは、オムロンが手掛ける卓球ロボット「フォルフェウス」の最新第7世代のモデルだ。

 むろん、オムロンは遊びで展示しているわけではない。同社が力を入れる制御機器関連の技術を体現し、分かりやすく示すとともに、これを製品へフィードバックするのが狙いだ。

 一般消費者には、医療関連でなじみの深いオムロン。産業向けの制御機器や制御システム、電子部品といった分野も重要な柱で、多くの企業に活用されている。

 そこで、同社がいま注力しているのは、コア技術「センシング&コントロール+Think」に磨きをかけること。つまり、センシングでさまざまな情報を読み取り、適切に制御し、さらにAIなども駆使しつつ、人と機械が融和していく現場の実現だ。

 その一環として、2013年に登場した「フォルフェウス」の進化が進んでいる。使われている要素技術は、いずれも産業現場で使われる最新技術。それを統合して、さまざまな機能を実装している。

 前の第6世代では、人の感情を推定してモチベーションを高めるラリーを実現した。つまり、厳しいと思っている人には楽な球を、楽だと思っている人には厳しい球を返して、続けたくなる気持ちを引き出す、といった具合だった。

ダブルスにも対応

 今回の第7世代では、2人のプレーヤー(ダブルス)に対応し、その感情をセンシングで捉え、プレーヤーらのパフォーマンスを高めていくような返球を可能にした。さらに、ラケットを持つ部分のロボットを更新し、卓球性能を向上。別のロボット導入と併せて、カメラとの連携で、スムーズなサーブも実現した。

 加えて、機械のパフォーマンスの「見える化」や、自律調整機能を盛り込んでいる。返球の精度などをリアルタイムでセンシングし、ラケットのラバーが劣化したら自律的に角度などを調整できるようにした。これらを通じて、広範囲に、長いラリーに対応できるようになった。

 ただ、このロボットが導くパフォーマンス向上とは、「卓球を上手にできるようにする」といった意味ではない。プレーヤー2人の「共感度」や「連携度」を測定し、返球を調整することで、協調が進むようにすることが狙いだ。
それを可能にするのが、各種センシングやアルゴリズム。心拍やまばたきなどを捉えるものだ。例えば、カメラで顔をセンシングすれば、顔色の変化で心拍数が分かる。画像センシング技術で「笑顔度」といった感情が推定できる。帰ってくるラリーのテンポ・スピードなども踏まえ、チームとしての連携を見て、より良いパフォーマンスにつなげるという仕組みだ。

 仕事の現場では、あうんの呼吸で作業が進んだり、無言のコミュニケーションが交わされたりしている。「フォルフェウス」が目指すのは、擦り合わせなどをよりスムーズに進め、チームとしてより楽しく、パフォーマンスを上げて仕事ができるようにするロボティクス技術だ。

エンジニアらがプレー

 表情などのセンシング技術、ボールやラケットのモニタリングや制御、人の動きの把握、カメラ、これらを総合できる統合コントローラー…。いずれも、さまざまな製品・ソリューションにフィードバックされていく。

 ちなみに、展示会場でプレーをデモしていたのは、開発エンジニアら。仕事を通じて自然とうまくなったという。今回はコロナを踏まえ、来場者による体験は残念ながら見送ったが、「人と機械の融和」を実感してもらっていた。
今回の展示会では、ほかにもさまざまな自動化・DX関連の最新動向が紹介された。
(17日付の電波新聞・電波新聞デジタルで詳報しています。動画も紹介しています)