技術開発速度上昇へ重要な年

サプライチェーン強靱化など大きな跳躍に備える

ウクライナ戦争長期化やエネルギー価格の高騰、米欧の利上げ継続やインフレ傾向から、エレクトロニクス製品を含む世界的な消費減速の懸念が高まっている。昨年のパソコンやスマートフォンの出荷台数は前年割れとなり、それらに使われる半導体も現在はメモリーを中心として在庫調整の局面にある。

　WSTS（世界半導体市場統計）は、昨年11月に最新の半導体市場予測を発表した。2022年（暦年）の世界半導体市場規模は、前年比4・4％増と成長が鈍化、23年は同4・1％減と4年ぶりのマイナス成長を予想しており、かなりの下方修正となった。

　23年度の半導体製造装置市場については、一部装置で納期延期などの要望が散見されるようになり、前年割れの可能性が高くなったと考えている。DRAMを中心としたメモリーの設備投資は既に削減が発表され、昨年10月に発表された米国の新輸出規制が半導体製造装置市場に与える影響についても現在慎重に精査を行っている。

　FPD製造装置市場については、ここ2年以上続いた巣ごもり需要の反動もあって、昨年はパネル需給の悪化による単価下落が続いた。それを受けて23年度（23年4月～24年3月）の投資計画も見直され、現在は厳しい見方が主流となってきている。一方で、多少の増減はあってもデータセンター投資やハイエンド品のスマホ需要は堅調であり、車載用途では自動車1台当たりに搭載される半導体数量もさらに増加することは間違いないと考えられている。加えて世界各地域で半導体に対する政府補助金が計画されており、全体の投資を下支えする。

24年度高成長へ

　当協会では、23年度が一時的に落ち込んだとしても、調整は短期間にとどまり、24年度は再び高い成長率に戻ると考えている。中期的な半導体製造装置の需要に関する見方そのものは健全であり、従前とまったく変わっていない。

　思い起こせば、19年度の日本製半導体製造装置市場は前年比7・8％減となり、7年振りにマイナス成長を経験したことがあった。しかし、その翌年の20年度には同15・0％増、21年度は同44・4％増と、驚異的ともいえる高成長に回帰していった。この時の経験が示唆することは、恐らく23年は「逼迫（ひっぱく）していた生産能力を整備し、部品を含むサプライチェーンの立て直しや強靭化（きょうじんか）を図り、技術開発のスピードを上げてゆくための重要な年」になるであろうということ。23年は次なる市場の拡大に向けてしっかりと足腰を鍛え、今年の干支である「卯（うさぎ）」のように、大きな跳躍に備えてゆく年にしたいと考えている。

　わが国において、現在ほど半導体の重要性がクローズアップされたことはなかった。昨年5月の日米商務・産業パートナーシップ（JUCIP）閣僚級会合における「半導体協力基本原則」に始まり、6月の骨太方針においては「20年代後半に次世代半導体の設計・製造基盤を確立」が明記され、11月には「次世代半導体の設計・製造基盤確立」（量産製造拠点：Rapidusと研究開発拠点：LSTC）の発表があった。日本政府からは続々と半導体産業の重要性に焦点を当てた力強い政策が発表されている。

優秀な人材確保

　これから日本の半導体・半導体製造装置産業を持続的に発展させてゆくためには、優秀な人財の確保が何よりも重要となる。当協会では21年4月に「人財開発専門委員会」が発足し、半導体業界に関心を持つ学生への情報発信や、会員を対象にとした勉強会やイベントの開催にも力を入れている。さまざまな啓蒙活動を通じて「半導体産業の重要度と将来性に関する情報」を多様な角度から継続的に発信している。

　今後、「膨大なデータ処理が社会をけん引する時代」と「将来のカーボンニュートラル社会」を両立させるには、半導体の高機能化と低消費電力化を同時に進めることが必須条件となる。高い機能とリーズナブルなコストを両立させるためには、先端パッケージやチップレットといった組み合わせ技術の発展も欠かせない。SDGsの推進に当たっては、世界の電力消費の4割以上を占めると言われるモーターの電力を抑える切り札として、パワー半導体の進化も期待されている。

　将来にわたる普遍的な社会課題の解決に向かって、製造装置業界に期待される役割は、これからも大きくなると考える。