2024.01.17 【計測器総合特集】アンリツ 無線LAN試験ソリューション

日本で利用可能になった次世代規格「IEEE 802.11be(Wi-Fi7)」に対応

 ■今日の無線LANの課題とWi-Fi7による解決

 オンライン・クラウドサービスの普及により、家庭やオフィスにおけるインターネット接続デバイスは、パソコン・スマートフォン・タブレットに加えて、ゲーム機・スマートスピーカーなど拡大の一途をたどり、通信トラフィック量もワイドエリアネットワーク(WAN)、ローカルエリアネットワーク(LAN)ともに増加を続けている。高まる通信需要に対し、WANでは第5世代移動通信システム(5G NR)を用いた固定無線アクセスサービスや、光ファイバーを用いた10G-EPON(Gigabit Ethernet Passive Optical Network)により課題を解決、さらなる高速化への対策を講じている(図1)。

 一方、LANで最も普及しているIEEE 802.11シリーズの無線LAN(米国電気電子学会IEEEが標準化)は、オフィス・家庭だけではなく駅・カフェ・観光地などさまざまな場所で手軽にインターネット接続できるメリットがある一方、免許不要で使用できるISMバンド(2.4ギガヘルツ・5ギガヘルツ帯)の利用や電波干渉に起因する通信速度の低下と、多数同時接続・混雑時の通信性能の劣化などの課題を抱えていた。

 これらの課題を解決するため、無線LANでは約20年ぶりとなる新たな周波数帯域「6ギガヘルツ帯」の利用が可能となり各国で運用が始まった。この周波数帯域は2023年12月に実施された世界無線通信会議(WRC-23)でも議題に上がり、国や地域によっては無線LANと移動通信システム(セルラー通信)が共存して活用されてゆく見込みである。

 現在無線LANで広く活用されているIEEE 802.11ax(Wi-Fi6/6E)で初めて6ギガヘルツ帯の利用が規定されたが、次世代規格 IEEE 802.11be(Wi-Fi7)では6ギガヘルツ帯の利用を前提として開発された初めての規格であり、320メガヘルツチャネル帯域幅の活用による通信速度の大幅な向上を実現することに加えて、多数同時接続時の通信効率性の向上や低遅延性能の改善に向けた規格を策定している。

 本稿執筆時点ではIEEE 802.11beは規格の策定途中であるが、ドラフト仕様に準拠した製品の発売は始まっており、日本でも23年12月22日の法改正によりドラフト 3.0以降の利用が合法化され、今後、対応製品が増えると見込まれている。

 IEEE 802.11beや6ギガヘルツ帯に対応した製品の開発・評価では、新たな周波数や広帯域化において課題が生じている。アンリツは法的規制に向けた試験ソリューションのほか、本稿で述べる通信品質改善に向けた試験ソリューションの提供を通じて、無線LAN市場に貢献する。

 ■無線LAN対応製品の開発・評価における課題

 無線LAN通信機能を搭載した製品の開発手法として、「無線LAN通信モジュール」を購入し対象製品に組み込む方法がある。相互接続性やデータ通信機能に加えて、通信品質やサポート、さらにはアンテナ設計も購入ベンダーから提供される場合もあり、有効な手段だ。

 一方で、通信モジュールを搭載する製品の全体設計において、高周波無線技術・ノウハウが発展途上にある場合が多く、アンテナ取付け位置や角度、筐体(きょうたい)パッケージ部材による電波減衰、モーターなどの機器内部ノイズによる干渉などが原因で無線LAN通信性能が劣化し、期待したサービスを提供できずビジネス課題に発展している事例が多くある。

 また、無線LAN通信規格の進化・高度化は、ソフトウエアによる通信パラメーター設定や組み合わせにより通信特性・性能が大きく変化する場合もあるため注意が必要だ。

 確実な通信品質を担保し、ユーザーへ価値あるサービスを提供するためには、これらを複合化した製品全体の総合評価や、ユーザー体験に直結する完成品での評価を行うことで解決する場合も多く、注目され始めてきた。

 ■代表的な評価手法の種類

 ①IEEE 802.11規格を参照した試験

 IEEE 802.11 WGにより無線LANの物理層とデータリンク層の仕様が標準化されている。試験対象機器と無線LAN特性評価に対応したテスターをケーブルで接続して無線特性を測定し、基準値と比較することで品質を確認することができる。品質基準は、機器から出力される信号品質を規定する送信試験と、機器が受信可能な信号レベル感度を規定する受信試験に大別される(図2)。この手法は主に通信データモジュールの開発評価、および受け入れ評価などで用いられる。

 ②放射測定(Over-The-Air measurement:OTA試験)

 通信モジュール・通信回路の品質評価を実施しても、最終製品で「通信が安定しない」などの問題が発生するトラブルも少なくない。製品化の際に生じるアンテナ特性や筐体パッケージ部材などが製品の無線放射特性・指向性に影響を与える可能性があるからだ。この課題を解決するため、米国セルラー通信工業会(CTIA)は、OTA環境におけるTRP(総合放射電力)とTIS(総合等方向受信感度)の二つの指標での放射性能を規定した。OTA環境では、無線暗室やチャンバーシステムを用いて無線機のアンテナから無線を放射し、空間を介して測定アンテナが無線信号を受信して測定する。かつては、アンテナの単体特性を評価する目的であったが、今日では前述の理由により完成品でのOTA特性評価が重要視されてきている(図3)。

 ③無線LANとセルラー通信の共存試験

 固定無線サービス用宅内端末、スマホやウエアラブル端末にはセルラー通信と無線LANの両方が搭載されており、同時稼働することで通信サービスを提供している。この場合、セルラー通信の周波数と無線LANの通信周波数がお互い隣接していたり、各信号処理ノイズやフィルターの内部干渉により、お互いの通信感度の劣化が発生する場合がある。

 複数の無線通信間の干渉を確認するため、CTIAはセルラー通信状態における無線LANの受信性能劣化試験や、無線LAN通信状態におけるセルラーの受信性能劣化試験を定義し評価を行うことを推奨している。

 ■アンリツの貢献

 前述したさまざまな評価手法やソリューションの提供を通じて無線LAN製品の開発効率と品質向上へ貢献するため、アンリツはWi-Fi7試験に対応した「ワイヤレスコネクティビティテストセット MT8862A」や「ユニバーサルワイヤレステストセット MT8870A」を提供している。IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax/be規格に対応した評価をサポートするほか、チャンバーベンダーと協業したOTA試験ソリューションを構築、展開している。

 さらには、5G基地局シミュレータ「ラジオコミュニケーションテストステーションMT8000A」を組み合わせることでセルラー通信との共存試験を実現し、より高度な評価環境を提供できる。

 Wi-Fi7は、4Kを超える高解像度の動画配信、遠隔制御やAR(拡張現実)/VR(仮想現実)などを支える基盤技術としても期待されており、今後もアンリツは、通信品質改善を通して先進アプリケーション・サービスの実現・普及に向けて貢献していく。

IEEE 802.11be(Wi-Fi7)の五つの特徴

 〈筆者=アンリツ〉