2024.06.21 【やさしい業界知識】IP放送
昨年のInter BEEのIP PAVILIONで「ST 2110」の相互接続検証が行われた
配信本格化機に急速に浸透
リモート制作の取り組み進む
IP(インターネットプロトコル)放送とは、放送波の代わりにインターネットのIP技術を利用して、放送コンテンツを配信すること。衛星放送やケーブルテレビなどと同じようにネット回線を使って、従来のテレビのように番組表の編成に沿って、さまざまなチャンネルの番組を楽しめるサービス。
国内では、NHKの「NHKプラス」や民放公式テレビ配信サービス「TVer」の見逃し配信の本格化を機に、「放送のIP化」が急速に浸透してきた。これにより、スマートフォンやパソコン、コネクテッドTVなどのインターネットに接続された端末なら視聴できる。
IP放送を流すためには放送局の設備もIP化が必須となる。現在は放送局で使用されている番組制作・放送設備はSDIという同軸ケーブルで接続されたネットワークが標準となっている。また、中継現場や送信所に送出する主調整室(マスター)やスタジオ内のマイク・ヘッドフォンに至る全ての機器もSDIで接続されている。
放送設備の置換
放送局内の伝送システムがIPネットワークに置き換わる「放送システムのIP化」への取り組みが積極的に行われている。IP化されたシステムは映像や番組制作・放送設備用のデータをIPネットワーク上で通信するために「SMPTE ST 2110」という伝送規格が標準化されている。この規格により、放送局内設備のインターフェースをSDIからイーサネットや光ケーブルに変換できるようになる。この規格の標準化により業界ではSDIベースからIPベースの伝送へ切り替えが進んでいる。放送局もST 2110規格をベースにしたIPスタジオ制作システムや、IP音声中継車など、徐々に整備されつつある。
番組制作システム
テレビ番組を制作するためには、カメラ、マイク、スイッチャー、ミキサー、モニターなど多くの機器を接続し、番組制作システムを構築する。従来のSDIは1本の同軸ケーブルで、システムに接続された一つの機器の信号を片方向に伝送するため、複数の同軸ケーブルを接続していたが、IP化されると各機器はIPネットワーク技術を利用し、イーサネットケーブル1本だけでIPルーターに接続する。IP化による拡張性、柔軟性を生かしたシステムや周辺機器の使い方をより一層推進していくことで、リソースシェアを本格的に運用に乗せていくことが可能となる。
一方で、IP番組制作システムの特徴を生かし、新しいライブ番組の制作手法であるIPリモート制作への取り組みも進んでいる。IPリモート制作は中継現場と放送局をIPネットワークで結び、中継現場から放送局へ素材信号を伝送することで、中継現場から離れた放送局でライブ番組を制作する手法。
IPネットワーク上にある既存の各種サービスと接続できれば、働き方改革やワークフローの変革なども促進できると期待されている。
毎年11月に開催する国際放送機器展「Inter BEE」では、放送のIP化の普及のために、「IP PAVILION」を設置し、さまざまなベンダーの機器が一堂に会する場として提供。放送局を構築したイメージで、複数の放送局と外部のデータセンターとの連携デモを実施し、IP標準規格の「ST 2110」に対応したライブ制作・伝送のデモを行った。
(毎週金曜日連載)