2024.10.18 【照明業界 未来予想図】〈2〉LED革命の到来

「ディスプレー」「一般照明」「自動車」の3分野がLEDの社会実装に貢献(出所:富士経済)

 「光源」と「器具」に分かれる照明市場の中、LEDは「光源」に属する技術・製品になる。LEDは「Light Emitting Diode」(発光ダイオード)の略で、半導体の一種だ。

 LEDは、緑色(G)と赤色(R)は高輝度・高出力化が実現していた一方、青色(B)だけは技術的にそれらが困難なままだった。2014年に赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の日本人3人がノーベル物理学賞を受賞したのは、技術的なハードルが高かった青色LEDの発明と実用化に貢献したことが評価されたからに他ならない。

白色LEDによる技術革新

 青色LEDの高出力化で可能になったのが、「白色LED」の製造。青色のLED素子に黄色の発光蛍光体を組み合わせることで、「高効率・長寿命・小型」の三拍子がそろった白色光源が誕生した。白色LEDの登場により、多くの「光」を用いるアプリケーションがLEDに置き換えられるようになった。

 携帯電話のキーパッドやライト、カプセル内視鏡、プロジェクター、画像処理用光源などLEDの用途は多岐にわたった。その中でも、とりわけ市場が大きく、付加価値が高いと見られていたのが「液晶バックライト」「一般照明」「自動車」の3分野だ。

 特に液晶バックライトは、00年代に携帯電話などでLED化が進んだ。その後も液晶テレビやモニター、スマートフォン、タブレットの普及によって爆発的に市場が拡大。LED光源の量産規模も飛躍的に拡大したことで、光源性能の向上に加え、製品価格の低減にもつながった。一般照明と自動車におけるLEDの普及を一気に前倒しすることになった。

 これほど急速に普及した背景には、LEDが半導体発光素子であり、放電技術によるこれまでの光源(ランプ)に比べて製造技術の進化が「桁違い」のスピードだったことがある。当時、光の効率を示す尺度として「ルーメン/W(ルーメンパーワット)」がよく使われていた。LEDは、白熱電球の20ルーメン/Wを早々に超え、蛍光灯の90~100ルーメン/Wもあっという間に超えた。照明器具に組み込む際にたとえ損失があったとしても、「省エネ性能が最も高いのがLED照明」というポジションを不動のものにした。

 ちなみに、光源性能の進化は、10年代前半にLEDと同じく次世代光源として注目されていた有機EL(OLED)照明なども駆逐するほどだった。当時は「点照明はLED、面照明は有機EL」と言われていたが、有機ELの性能向上や量産化による低価格化などのハードルが高く、それらの課題を克服する前にLEDがはるかに低価格で高性能になってしまった。さらに応用展開も進んだことで、有機ELは市場定着に至らなかった。

 ここまでがLED革命の前半戦で、技術革新に関連した経緯になる。ここからは、液晶バックライトなどと異なり、製品のライフサイクルやモデルチェンジの頻度が低い一般照明で、なぜ短期間でLED化が進んだのか。LED革命の後半戦である社会実装に至るまでを解説していく。

100年に1度のパラダイムシフト

 光源=ランプの交換需要に支えられて照明市場は長期繁栄してきた。それはこれまで説明した通りだ。従来光源よりも効率が良く、長寿命であるLEDを光源に用いた「LED照明」は、照明業界にとってどのような存在だったのか。

LEDの登場で照明業界のビジネスモデルが根底から崩れた(出所:富士経済)

 高効率で長寿命であると、ランプの交換頻度が著しく減少してしまうことは想像に難くない。寿命は、白熱電球が1000~2000時間、蛍光灯が6000~1万2000時間とされる中、LEDは4万時間。しかも、あくまで「当初の明るさが半減するのが4万時間」という数値であり、実際にはより長い期間切れずに光り続けるとされていた。海外ではもっと長い寿命で表記されるケースも多い。

 光源より先に電源・部品が寿命を迎えるなどの意見はあったものの、07年~08年頃の普及初期は、分かりやすく「10年間交換不要」という文言で製品が発売されていた。「10年間交換不要」となると、ランプメーカーとしては当然、従来の10分の1から5分の1程度にまで交換頻度が激減してしまうと考えただろう。そのためか、白熱電球を代替する初期のLED電球の定価は1個1万円以上の価格設定となった。これは、従来品の10倍以上の価格だった。

 従来の優れたビジネスモデルを自ら壊す理由もない国内ランプメーカーは、LED照明、特に従来のランプを代替するLEDランプ(LED電球やLED蛍光灯)に対して、極めて消極的な姿勢が目立った。それに対し、積極攻勢を仕掛けていたのが、器具専業メーカーや異業種からの参入企業だ。

 器具メーカーはこれまで、ランプメーカーから調達したランプに対応した製品しか作れなかった。しかし、LEDメーカーから直接調達し、デザインから品質・用途訴求も含む製造が可能になった。

 異業種企業にとっても同様で、LED光源さえ調達すれば自由に省エネ照明が作れることから、大手から新興・ベンチャーまで、数多くの企業が照明市場に参入した。装置産業としてランプ製造を囲っていたこれまでの業界構図が、LED光源の登場によって製造面のコモディティー化が進むことになった。

 10年代は世界的に照明産業の大きな変革が進むと見られていたが、日本市場は、さらにそれを加速させる決定的なトリガーが引かれた。それが、11年3月に起こった東日本大震災を契機とする電力不足への不安と省エネ機運の急上昇だ。ここから日本市場は、世界でも類をみないLED照明ブームと、それに伴う“混沌”と“狂熱”に見舞われることになる。

<執筆構成=富士経済・石井優>

【次回は11月第1週に掲載予定】