2025.10.06 クラレ、サイフューズなど4社、再生医療の産業化・社会実装への協創を推進

サイフューズの秋枝社長は事業ロードマップなどを紹介した

協創活動の概要を説明するクラレの小林ライフイノベーション事業推進部長協創活動の概要を説明するクラレの小林ライフイノベーション事業推進部長

 クラレ、サイフューズ、ZACROS、千代田化工建設の4社は、再生医療の産業化と社会実装に向けた協創に取り組む。細胞の挙動を解析・予測する新規シミュレーションソフトを駆使した効率的な大量培養プロセス構築法の確立とプラットフォーム化に関する共同開発を進める。

「3D培養法」に着目し技術融合

 再生医療の産業化では、細胞の大量培養技術の革新が不可欠だ。特に、細胞の安全性と機能性を担保した安定的な製造技術の確立に加えて、製造プロセスの効率化によるコスト低減が重要課題となっている。こうした課題を踏まえて4社は、細胞大量培養の主軸となる「3D(3次元)培養法」に着目し、それぞれの要素技術を融合させる。

 具体的には、ラボスケールでの培養状態を、実際の細胞解析データ、CFD(数値流体力学)による流体可視化技術、さらにAI(人工知能)解析を組み合わせて、現実世界をデジタル空間上に再現する「デジタルツイン」とした。これにより商業規模での細胞培養状態を正確に把握し、培養結果を予測可能とするシミュレーションソフトを駆使した大量培養プロセス開発に共同で取り組む。

 サイフューズが開発を進める再生医療製品のパイプラインに用いられるヒト細胞を対象に、ZACROSの培養装置技術、クラレのマイクロキャリア技術、千代田化工建設の分析評価技術やCFD・AI技術を組み合わせることで、効率的で最適なスケールアップ技術の確立を目指す。4社の技術連携により、再生医療や創薬分野での新たに知見を獲得するとともに、ヒト細胞大量培養プロセス開発の効率化を進め、再生医療製品や創薬支援ツールの開発に反映していく計画だ。

共同開発の成果を製薬会社へ展開

 1日に東京都内で行われた4社共同の記者会見で、クラレの小林悟朗研究開発本部ライフイノベーション事業推進部長は、「医療分野ではモダリティーの変化が起きている。低分子医薬品からバイオ医薬品への転換が進み、また、今は創世記の再生医療も3割を超える年平均市場成長率が予測されている。石油化学品からバイオ工業への転換も進む。これらはいずれも細胞を大量に培養する技術が鍵となる」と、協創の意義を強調した。

 共同開発で得られた成果は将来、製薬会社に役立てていく計画だ。事業化までのロードマップについて、サイフューズの秋枝静香社長は、「今後数年内の再生医療等製品としての承認取得を目指し、2030年以降には病院で再生医療を治療として受けられる体制作りを進めたい」と意欲を示した。

 大手総合化学メーカーのクラレは顧客の細胞製造プロセスを想定し、自社技術を生かして関連資材の開発に取り組む。サイフューズは再生医療ベンチャーで、細胞のみで立体的な組織を作る「バイオ3Dプリンティング」の技術を用い、神経・骨軟骨・血管再生のパイプラインを中心に再生医療などの製品の開発に力を入れている。

 化学品メーカーのZACROSは、バイオ医薬品製造に必要なシングルユース製品の開発や製造などに注力。プラント建設大手の千代田化工建設も筑波大学付属病院内に細胞培養加工施設を開設するなど、再生医療分野の取り組みを加速している。