2025.12.10 東レ、高耐久・高選択NF膜エレメントの量産技術を確立 廃電池からのリチウム回収率95%以上を達成
廃LIBリサイクル技術の現状と東レの開発技術の特徴(出所:東レ)
東レは、車載用リチウムイオン電池(LIB)のリサイクル時に、高純度・高収率でリチウムを回収可能な新開発の高耐久・高選択ナノろ過膜(NF膜)エレメントを実用サイズにスケールアップする技術を確立した。
従来、廃電池のリサイクルでは、高価なニッケルやコバルトの回収が中心で、リチウムの多くが廃棄されてきた。一方で、ニッケルやコバルトを含まないLFP(リン酸鉄リチウム)系電池の急速な普及に伴い、リチウム単体の回収ニーズが高まっている。今回の開発技術を適用することで、ニッケル・コバルト系電池に加え、LFP系電池を含む幅広いLIBから効率的かつ高品質にリチウムを回収可能になり、資源循環への貢献が期待できるという。
同社のNF膜は、これまで塩湖からのリチウム分離回収に活用されてきたが、使用済みLIBからの回収では、廃電池から金属成分を抽出した強酸性の硫酸浸出液をろ過する必要があり、従来の膜では強酸耐久性に課題があった。
このため、使用済みLIBを加熱処理して得られたブラックマスの硫酸浸出液に対し、耐酸性を飛躍的に向上させた高耐久・高選択ナノろ過膜を用いてろ過処理を行うことで、リチウムを選択的に分離・回収する世界初の分離膜技術の提案と複数の実証を研究ラボスケールで進め、同技術により95%以上の収率でリチウムを回収できることを確認した。
今回、同社は、環境省委託業務を通じて、有機合成化学・高分子化学・ナノテクノロジーの知見を融合させた高耐久・高選択ナノろ過膜エレメントの広幅化によるスケールアップに目途をつけた。このスケールアップにより、従来の水処理用途向けエレメントと同サイズでのモジュール量産が可能となった。
これにより、実用スケースでのリサイクルプロセスへの適用、そのための顧客へのサンプル提供が可能となり、早期の市場投入と社会実装を加速させる。
全世界の廃棄LIB量は、2025年は約30万~40万tと見込まれているが、2035年には約400万t以上と、10倍以上の増大が予想され、廃棄LIBに占めるLFP比率も現状の約4割から、2030年には6割以上への拡大が予想されている。
同社が開発した高耐久・高選択ナノろ過膜は、強固な耐酸性構造と1nm以下の精密な細孔構造の両立を実現した独自の架橋高分子膜で、1価イオンと多価イオンの選択分離が可能。酸反応性制御・精密孔径制御により創出した。「NF膜は通常は耐酸性と選択性はトレードオフの関係にあるが、新規NF膜では、これらを両立した」(同社)。そして、実用スケール品へのスケールアップにより、従来のラボスケール品(φ2.5インチ×30cm)と比較し、リチウム回収量が60倍に向上できるという。
新規NF膜の実用スケール品のサイズは、φ4インチ×1.0mおよびφ8インチ×1.0m。新規NF膜は、同社滋賀事業場の未来創造研究センター(大津市)により創出され、量産場所は韓国を予定する。「26年ごろから少量での生産が始まる見通し」(同社)。
同開発成果の一部は、環境省の委託業務「令和5年度国内資源循環体制構築に向けた再エネ関連製品及びベース素材の全体最適化実証事業(実証委託)」の結果から得られた。
▽ブラックマス リチウムイオン電池のリサイクル過程で得られる黒色の粉体。リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、鉄などが含まれている。










