2026.01.21 個人情報保護「匿名化は機能していない」日本国際賞受賞のドワーク博士、差分プライバシー提案

差分プライバシーを提案したドワーク博士

 国際科学技術財団は2026年の「Japan Prize(日本国際賞)」受賞者を発表した。「エレクトロニクス、情報、通信」分野で米国のCynthia Dwork(シンシア・ドワーク)博士、「生命科学」分野は日本の審良静男博士と米国のZhijian Chen(ジージャン・チェン)博士が受賞する。

 ドワーク博士の受賞業績は「差分プライバシーや公平性などの倫理的なデジタル社会構築に向けた先導的な研究への貢献」。審良博士とチェン博士は「自然免疫システムによる核酸認識メカニズムの解明」だ。同財団が国内外1万6000人の著名科学者や技術者に依頼し、「エレクトロニクス、情報、通信」分野で107件、「生命科学」分野で185件の推薦を受け合計292件の候補から決定した。

 ドワーク博士は個人が利便性のため提供した個人情報やデータによって不利益を被る懸念などについて数学的枠組みを構築し、プライバシー保護、公平性、分散的信頼の原理を数理的に定式化した。2006年に発表した「差分プライバシー(DP)」は特に大きな成果で、データを利用しながら背後にある個人情報の漏洩の危険度を数学的に議論できるようになったと同財団は評価する。

 DPはデータ分析の結果が特定の個人のデータを含むかどうかでほとんど変わらないことを保証する数理的定義。統計データの公開が個人のプライバシー保護に及ぼすリスクを定量的に評価する尺度を数学的に定義し、データ活用の有用性とプライバシー保護との間のトレードオフを定式化した。統計的ゆらぎを意図的に加えるなど保護水準に応じた具体的な統計処理手法も提示。米国のApple、Google、Meta、Microsoft、日本のNTTドコモなどがDPに基づくプライバシー保護を導入し、米国の2020年国勢調査も採用した例がある。

 DPの普及以前に広まった、個人情報から例えば氏名などを削除し識別を困難にする「匿名化」などの手法もプライバシー保護手段として今日なお残る。ドワーク博士は受賞に関するオンライン記者会見で質問に答え「匿名化はずっと以前から機能しなくなったと感じている」とあらためて振り返った。過去の匿名化手法で加工したものは実際には「匿名化していないか、もはやデータではないかのどちらか」と指摘。技術の進歩によって「ある人物が誰かを特定するのにそれほど多くの情報は必要ない」状況だとした。