2020.08.21 【5Gがくる】<8>4K/8K映像が切り開くニューノーマル③

 戦国最強と言われた武田信玄の騎馬隊を織田信長が打ち破った『長篠の戦い』は、戦術を変えたことで名高い。当時の鉄砲は発砲するたびに弾と火薬を詰め直し再び火縄を点ける。〝発砲〟までに時間がかかるため実戦では使い物にならなかった。信長はその遅延という課題を〝三段撃ち〟で解決した。

 時を戻そう。我々は今、5Gによってニューノーマルを切り開こうとしている。5Gの新たな武器「eMBB(エンハンスト・モバイル・ブロードバンド)」は下りの最大通信速度20ギガbps、上りの最大通信速度10ギガbpsという超高速だけでなく、ユーザーデータの送信遅延1-4ミリ秒という超低遅延も性能要件として含まれている。

 ユーザーの体感速度は100メガbpsになるため光回線並みと言えば分かりやすい。例えば、高精細4K映像は30-40メガbpsの通信速度が必要でありビデオカメラと視聴端末(PCやスマートフォンなど)間を5G回線と光回線でつなげば、リアルタイムで配信できるようになる。

サービスには壁

 ところが、サービスの実現には先の「火縄銃」と同じような課題が立ちはだかる。それは、なぜだろうか? 

ローカル5Gによるプライベート網

 通信の世界ではエンドツーエンド遅延(E2E遅延)というのがある。これは発信端末(エンド)から受信端末(エンド)へユーザーデータを送信するのにかかる時間のことだ。ライブ映像では、カメラから視聴端末へ送信される映像と音声データの遅延になる。

 テレビのニュースで、地球の裏側にいる特派員との中継で映像が乱れたり返事が遅れたりして不自然な会話となるシーンを見た記憶もあると思うが、これが遅延の分かりやすい事例だろう。

 そのため、映像や音声の品質を劣化させない目安として、ビデオ映像のE2E遅延は250ミリ秒以下、音声通話の場合は150ミリ秒以下としている。また、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用した工場や工事現場の遠隔操作やゲームなどの没入型の場合には、乗り物酔いを防ぐため20ミリ秒以下としている。

 5G回線自体の遅延は数ミリ秒程度になるため、これらの目安を十分に満たしている。しかし、エンドツーエンドで見ると5Gは全体の一部分、すなわち、先の火縄銃でいう〝発砲〟にすぎない。その前に膨大な映像データ量を処理する、いわば弾と火薬詰めの作業が必要なのだ。

 通信でいう弾と火薬詰め作業は発信側で行うデータ圧縮で、この圧縮にかかる時間が圧縮遅延だ。もう一つは、品質劣化の主たる要因となるインターネット経由のクラウドにおけるコンテンツ配信サーバーの処理遅延だ。インターネットは回線を共有する公衆網であるため回線が混んできたら使えない。そのため、品質が劣化しやすい。

遅延を抑えられる

 その点、ローカル5Gはインターネットへ出る手前(エッジ)のプライベート網であるため回線を専有でき、その中に配信用のMECサーバーを置けば遅延を小さく抑えられる。

 4K/8Kライブ映像はローカル5Gだからこそ実現できるニューノーマルといえるだろう。(つづく)

<筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏>