2020.09.25 【5Gがくる】<12>コロナで見えてきた5Gによる遠隔教育①

 学校の起源は「寺」だという。織田信長も尾張の天王坊という寺に登山し僧侶から習っていたと伝えられている。その一方で、僧侶たちは山や河を越え遠隔地へ出向いて教えていたらしい。

 時代を超えコロナ禍の中、大学をはじめ学校の教師や学生たちも遠隔授業(オンライン授業)に苦しんでいる。彼らの悲痛な声を聞くと、ICT(情報通信技術)が普及したにもかかわらず「遠隔教育」の困難さは変わっていないように思える。それはなぜなのか?

 そこには、テレワークとは違う教育現場特有の課題もあるようだ。その課題を5Gがどのように解決しニューノーマル(新しい日常)の学校教育を切り開くのか?

 今後、遠隔教育はテレワークとともにローカル5Gの大きなユースケースに発展する可能性がある。これから3回にわたって教育現場と5Gについて考えていく。

反転学習の登場

 寺が学校に代わり、僧侶が教師に代わったにせよ、学生たちが教室に集い講義を受ける教育形態は、今もなお続いている。ところが昨今、「反転学習」という新たな教育形態が登場し注目されている。反転学習とは「教室での授業」→「自宅での宿題」といった従来の教育プロセスを反転したものだ。

ニューノーマルな教育プロセス「反転学習」

 まず、教師がオンデマンドで学習できるデジタル教材を作成し、サイトへアップする。動画やテキストなど、メディアは問わない。次に、そのデジタル教材を学生たちがダウンロードし、各々が自宅など学校以外(遠隔)で自習する。ここまでが反転学習の〝前工程〟になる。

 その後、この事前学習によって得られた知識を持って学生たちは教室へと集う。もちろん、教師はオーソドックスな授業はしない。学生たちに課題や演習問題を与え、個々に合わせた指導や「アクティブ・ラーニング」と呼ばれる双方向の能動的授業によって、彼らの理解を深めていくのだ。

 たとえば、教師と学生たちが参加するグループ・ディスカッションやグループ・ワークなどによって、課題について互いに議論し合い、学生自ら解を見つけるよう進めていく。これが反転学習の〝後工程〟になる。ハーバード大学マイケル・サンデル教授の『白熱教室』のような授業を想像すれば分かりやすい。

 この〝後工程〟は我が国の課題解決型人材の育成にとっても極めて重要とされる。教室で一方的に繰り返されていたこれまでの「知識の伝授」をデジタル化することによって効率化し、従来、宿題として学生に委ねていた「知識の咀嚼(そしゃく)・活用」に指導の重点を置くことができるのが、反転学習の大きな特徴だ。

ビフォア5G

 そして、学校のみならず企業においても、この反転学習の試行が始まっていた矢先に、コロナ禍に見舞われた。図らずも、ステイホーム時のオンライン授業は現ICT環境(ビフォア5G)による実証実験となった。その結果はどうだったのか?(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉