2020.10.30 【5Gがくる】<17>超高信頼・低遅延によるワイヤレスMCの実現 ③

 戦国時代最大のミステリーと言えば「本能寺の変」だ。織田信長は、なぜ明智光秀との確固たる相互信頼を築いていなかったのか? それは、光秀の〝高信頼〟を得ることより、光秀の才知を利用して「天下布武」を〝遅滞なく〟実現することのほうが、信長には重要だったのかもしれない。

 さて、ニューノーマル時代のワイヤレス・ミッションクリティカル(MC)には信長が果たし得なかった「高信頼度」と「低遅延」の両立が求められる。

帯域幅を広げる

 5Gの「超高信頼・低遅延(URLLC)」では、限られた「周波数資源」を共有しながらデータ送信する無線回線の「構造的な遅延」を、搬送波の帯域幅を広げることによって短縮化している。

 その仕組みを説明しよう。

 高速データ送信する際には、データを搬送するサブキャリア(搬送波:ある特定の周波数と帯域幅を持つ電波)が複数個、同時に使われる。4Gと5Gは共に、連続する12個のサブキャリア群を同時に使用するので、データ送信ごとに割り当てられる周波数資源は「サブキャリア間隔」(ヘルツ)×12となる。

 物流トラックのスケジュール管理に例えると、トラックに相当するのがサブキャリア群で、トラックの大きさはサブキャリア群の帯域幅、すなわち「サブキャリア間隔」×12に相当する。

 そこで、4Gと5Gの違いはこの「サブキャリア間隔」にある。4Gでは15キロヘルツだが、より高い周波数を利用する5G(サブ6)では15、30、60キロヘルツ。5G(ミリ波)では、60、120キロヘルツまで広くできる。

 サブキャリア群の帯域幅で見れば、4Gでは15×12=180キロヘルツだったのが、5G(ミリ波)では120×12=1.44メガヘルツまで広帯域にできる。つまり、4Gでは小型トラックだったものが、5Gでは大型トラックになるわけだ。

超高信頼・低遅延によるワイヤレスMCの実現

 したがって、同じ貨物の量(データ量)ならば、全ての貨物を目的地まで搬送するのに必要な往復回数を大型トラックでは激減させることができる。その結果、貨物を搬送する時間(データ送信時間間隔)が短くなると思えば、容易に理解できる。

1ミリ秒が0.25ミリ秒

 実際「送信時間間隔」は4Gでは、1ミリ秒だったのが、5G(サブ6)では0.25ミリ秒に短縮される。さらに、ミリ波にすれば0.125ミリ秒まで短縮可能だ。これにより無線区間の「構造的な遅延」となっているデータ送信の待ち時間を5Gでは8分の1にまで縮めることができる。

 ところが、これで「高信頼度」と「低遅延」の両立をうまく成し得たかと言えば、まだだ。電波環境における「高信頼度」と「低遅延」の兼ね合いという、もう一つの山を越えなければならない。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉