2020.12.16 ニューノーマル時代 革新サービスが伸びるペガサス・テック・ベンチャーズのウッザマンCEOに聞く
ウッザマンCEO
世界で約1600億円のファンドを運営し約180社のベンチャー企業に投資した米シリコンバレーのペガサス・テック・ベンチャーズの共同代表パートナー兼CEOを務めるアニス・ウッザマン氏は、電波新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大を機にニューノーマル(新しい日常)時代を支える革新サービスの需要が大きく伸びるとの見方を示した。一方、日本で大学発ベンチャーなどの育成に向けた環境を一段と充実させる必要性も指摘した。
―コロナの影響でベンチャー投資が減速する傾向にあります。
ウッザマンCEO コロナの影響を受けて、個人投資家からベンチャーキャピタル(VC)に至る全ての投資家が、ベンチャー投資に慎重になっている。コロナ下で調達した資金を長く持ち続けられなくなり、倒産に追い込まれる企業も出てきた。株式の価値を下げて資金を集める「ダウンラウンド」が増える傾向も見られる。
―コロナを機に新たな成長の機会も広がりつつあります。
ウッザマンCEO 一つが非接触でタイムリーに診断する遠隔医療で、世界で需要が大幅に増えている。この分野に対するVCの投資額は20年前期だけで過去最高の6300億円に達した。例えば、米国のAmwell(アムウェル)は、患者と医師を24時間体制でつなぐ遠隔医療プラットフォームを全米で提供している。コロナの感染拡大に伴う需要増で利用者は10倍になった。
―それ以外で成長が見込まれる分野は。
ウッザマンCEO 非接触でタイムリーに買い物できる宅配サービスもコロナをきっかけに伸びた事業で、さらに需要が増えていくだろう。フードデリバリー市場は20兆円規模になる見通しで、これまでの食品業界を大きく変えそうだ。自動運転技術を搭載する宅配自動車を開発した企業にも注目している。この車がスーパーに買い物に行き、自宅まで届けてくれる。
そのほか、進化したAI(人工知能)とロボティクスを組み合わせて人手不足の問題を解決する展開やオンライン教育なども伸びるだろう。
―ベンチャーの育成に向けた日本の現状をどう見ますか。
ウッザマンCEO 日本の大学など研究機関の技術レベルは高い。ベンチャーを育てる環境づくりも進んできたが、大学に眠るアイデアを起業につなげるプログラムの改善がもっと必要だ。東京や大阪など大都市に集中するインキュベータやアクセラレータなどのベンチャー支援組織を地方に整えることも重要となる。投資額のボリュームは米国と比べると不足しており、ベンチャーを立ち上げる初期の「シード期」への投資を増やすべきだ。
―国内で、コーポレートベンチャーキャピタルと呼ぶ大企業によるベンチャー投資が盛んです。
ウッザマンCEO 米国ではIBMやグーグル、アップルなどIT大手が積極的にM&A(企業の合併・買収)を仕掛け、成長のリードを維持している。日本もベースの技術を生かし、危機感を持ち頑張ってほしい。
20年上半期のベンチャー投資26.5%減
ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)によると、20年上半期(1-6月)の国内ベンチャーキャピタル(VC)投資額は747億円だった。前年同期(1016億円)比で26.5%減。半期ベースで見ると、国内投資件数は19年下半期から2期連続で減少した。
VECは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ベンチャー投資に対するVCの慎重姿勢が強まっていると分析。一方で「ニューノーマル(新しい日常)の到来を商機に変えようとする魅力的なベンチャーに投資が集中する傾向が見られる」との見方も示した。
20年第2四半期(4-6月)の国内投資額(350億円)を業種別に見ると、引き続き「コンピュータ・関連機器、ITサービス」のシェアがトップで41.1%となった。ただ、新型コロナの影響で前年同期比約4割減と大きく落ち込んだ。
コロナに有効な治療薬やワクチンへの期待感から注目されている「バイオ、製薬」は11.9%を占めた。