2021.01.05 水力発電の電力で製造したCO2フリーの水素エネオスが住友商事などとサプライチェーン構築向け協業検討

サラワク州にあるバクン水力発電所のダム。同州には、ほかにも多くの水力発電所がある

 石油元売り最大手のENEOS(エネオス)は、再生可能エネルギーを活用し、二酸化炭素(CO2)を排出せずに製造した水素のサプライチェーンを構築するため、具体的な検討を始める。マレーシアで豊富な水力による発電を利用して国外などへ水素を供給する構想で、今月から事業の事前検証などを行う。

 同社のほか、住友商事、現地マレーシアの石油・ガス管理事業を営む公的機関の100%子会社、SEDCエネルギーの3社で協業検討の覚書を締結した。

 今回の計画はマレーシア東部のサラワク州で検討する。同州には豊富な水力資源があり、現在でも計350万kWの水力発電所が稼働中。25年までに130万kW級の水力発電所の増設も予定されている。

 水力発電は出力が安定しており、余剰電力で水を電気分解し、安定的で安価にCO2を排出せずに水素を製造できる。

 計画では、数万トン規模の水素の製造を想定。その後、効率的に輸送するため、化学反応で液体のメチルシクロヘキサン(MCH)に転換する。貯蔵や輸送などの取り扱いが容易なことが特徴で、常温常圧で水素ガスに比べて500分の1の容積になるという。MCHは輸送船でマレーシア国外の需要地へ海上輸送する計画だ。

 事業予定地である同州の臨海部、ビンツル地区には大規模な石油化学工業団地があるため、既に貯蔵タンクや出荷設備をはじめ、港湾のインフラが十分に整備されており、MCHの輸出に適している。

 エネオスは、MCHの製造から海上輸送までを担って事業化が可能かなどを調査する。「日本の需要規模に応じてプラント建設などのコスト試算を行い事業性を評価する」(同社)。

 一方、住友商事は水力発電から水素製造までの事業性評価などを実施。SEDCエネルギーは立地選定や現地調査などのほか、計画全体の検討のサポートを担当する。

 さらに、エネオスは独自に、サプライチェーンの下流部についての事業化の検討も行う。日本で受け入れたMCHから取り出した水素を同社製油所や近隣の火力発電所などで利用する場合のほか、マレーシア国内やシンガポールといったアジア諸国の需要地へ供給する場合について、コストに見合う事業化が可能か、評価を進める。

 同社は40年以降の将来に向けて、水素を事業の柱の一つに成長させる目的で、既に複数の構想について検討を進めている段階。今回、協業を検討する計画について、「当社が主導する大きな構想の一つだ」(同社)としている。