2021.01.21 【コンデンサ技術特集】日本ケミコン 高出力リード形電気二重層キャパシタの開発

 電気二重層キャパシタは同じエネルギー貯蔵デバイスである二次電池に比べて低抵抗であること、高効率充放電が可能であること、また長寿命であるという利点から大電流で使用される用途などで実用化されている。

 日本ケミコンは電気二重層キャパシタの大形ねじ端子タイプ品を2003年から量産化しており現在では民生用途や車載用途など幅広い用途に向けて製造、販売している。近年、自動車の電動化が盛んに進んでいる中、事故や故障でバッテリからの電源供給が失活した場合に信頼性の高いバックアップ電源が求められており、車載用バックアップ電源として小形の電気二重層キャパシタが注目されている。日本ケミコンではそのようなニーズの高まりから小形リード端子タイプの開発を数年前から行っており2018年から小形リード端子タイプ「DKAシリーズ」の量産を開始した。

 本稿では電気二重層キャパシタの一般的な特徴と応用事例、また日本ケミコンにおいて大形ねじ端子タイプの技術を踏襲して開発を行い、車載用途として採用され量産化した「DKAシリーズ」の製品特性について紹介する。

<電気二重層キャパシタの動作原理> 

 電気二重層キャパシタは主に正極と負極の2枚の電極と電解液、セパレータからなっており、電極表面と電解液との界面にて生じる電気二重層を利用して電気を貯蔵するデバイスである(図1)。二次電池のような化学反応を伴わないので出力密度に優れており、大電流で瞬時の充放電が可能である。また低抵抗であるという利点から充放電に伴う反応熱が少なく充放電を数十万回行っても劣化が少ないことが特徴として挙げられる。さらに構成される材料は重金属など使用しておらず環境に配慮したデバイスとなっている。

<電気二重層キャパシタの構成材料>

◆電極材料

 電極表面と電解液の界面で生じる電気二重層が蓄電原理であることから容量を大きくするにはできるだけ比表面積の大きな電極材料が求められる。一般的に電気二重層キャパシタには活性炭と呼ばれる比表面積が2000㎡/g程度の材料が使われている。活性炭の原料は天然植物系、ピッチ系、樹脂系などがあり、これを炭化し賦活と呼ばれる小さい穴を空ける作業を行う。原料や賦活方法によりキャパシタの電気特性や寿命特性に影響を与えることが分かっており、電気二重層キャパシタの用途により最適な活性炭を電極材料として使用することが求められている。

◆電解液

 電気二重層キャパシタの電解液の溶媒は主に水溶液系と有機系がある。水溶液系は水の電気分解反応で耐電圧が制限されてしまうことから、使用する際の電圧が低くなってしまう欠点があり、現在では有機系が主流となっている。

 有機系電解液の溶媒には、プロピレンカーボネートやアセトニトリルなどが使用されている。アセトニトリルは低抵抗で出力密度が高い電気二重層キャパシタを作製するのに優れた溶媒であるが、燃焼・熱分解時に人体に対して毒性が高いシアン化合物が放出されることが問題である(日本ケミコンでは安全性に配慮してアセトニトリルを使用していない)。電解液の電解質は第四級アンモニウム塩やアミジン系を用いたものが多いのが現状である。優れた電気特性が得られるよう、溶媒と電解質の品種や割合を最適化している。

◆セパレータ

 セパレータは正極と負極が物理的に接触してショートするのを防止する役目と電解液を保持する役目を果たしている。材料としてはセルロース系、樹脂系などが挙げられる。セパレータは厚みや密度などがキャパシタ特性に影響することがわかっており、これらの値の最適化を行っている。

<電気二重層キャパシタの応用事例> 

 半導体や液晶パネル工場において、工場の電気系統への落雷などにより電圧が低下することは日夜操業を続ける製造ラインに多大な被害を与えるため、工場は瞬低対策として瞬低補償装置(UPS)を導入していることが多い。UPSに使用される蓄電デバイスとしては二次電池や電気二重層キャパシタが挙げられるが、電気二重層キャパシタは瞬間的に大電流を流すことが得意なことからUPSに適しており、長期使用した時の劣化も少ないことからメンテナンス費用を抑えられるメリットがある。

 自動車や電車の回生エネルギーを蓄電デバイスに貯蔵し、電力を使用する時に蓄電デバイスより放出する回生エネルギー貯蔵システムは、エネルギー効率を高める効果がある。

 日本ケミコンでは2012年からATENZA(マツダ)向けに回生エネルギー貯蔵システムの蓄電デバイスとして大型ねじ端子タイプ電気二重層キャパシタ「DXEシリーズ」を供給しており、減速時に廃棄していたエネルギーを電気二重層キャパシタに貯蔵することにより燃費向上に大きな役割を果たしている。

 一方近年、自動車はガソリン車においても様々な機器の電動化が進んでおり、重要機器に対しては鉛電池などからの電源供給が途絶えた場合でも電気で作動させることが必須であることから、小型のバックアップ電源が求められている。そのようなバックアップ電源に対してはリード端子タイプの電気二重層キャパシタが活躍しており、自動車のドアロック、シフトバイワイヤなどのアプリケーションで採用されている。

<小形リード端子タイプ「DKAシリーズ」の特徴>

 日本ケミコンにおいて、新規材料により開発された小形リード端子タイプ「DKAシリーズ」の製品特性について紹介する(写真1)。

[写真1]DKAシリーズ

 現在、カタログ品として量産中の製品サイズφ18×50Lmm、定格電圧2.5V品の電気特性を示す(表1)。低抵抗を重視した構成材料を選択することで容量は50F、内部抵抗は11mΩ(typ.)と同サイズの他社品と比べても業界トップレベルの性能を示している。

 2.5V70℃負荷試験における時間ごとの容量変化率と内部抵抗を示す(図2)。70℃という環境におけるフロート試験においても内部抵抗増加がわずかであり、高温下で使用するアプリケーションにおいても安定した電気性能を示すことがわかる。

 次いで、環境温度における容量変化率と内部抵抗を示す(図3)。-40℃という極低温下においても内部抵抗の変化がわずかであり、容量に関しては全温度においての変化はわずかである。

 現在のカタログ品はφ18×50L品のみであるが、その他のサイズについてもラインアップを順次拡大していく予定である。

 日本ケミコンでは、顧客の要求によりφ18×50L品を数セル使用したキャパシタモジュールとしての検討も行っており、あらゆるアプリケーションへ適応可能な形で提案することができる。

<今後の展望>

 電気二重層キャパシタの特徴と応用事例、小形リード端子タイプ「DKAシリーズ」の製品特性について紹介したが、日本ケミコンでは「DKAシリーズ」以外にも大形ねじ端子タイプとして、低抵抗タイプの「DXEシリーズ」、高電圧タイプの「DXFシリーズ」、広温度適応タイプの「DXGシリーズ」などの電気二重層キャパシタをラインアップしている。また大形ねじ端子タイプはさらなる高電圧化、高温度化の開発を行うなど、用途拡大のためより高性能な大形ねじ端子タイプ電気二重層キャパシタの量産化を検討中である。

 小形リード端子タイプ電気二重層キャパシタにおいては現行の「DKAシリーズ」よりさらなる高容量化、低抵抗化の開発も進めており、顧客のニーズに応えるべく日々努力している。

<米倉大介:日本ケミコン(株)技術本部 第三製品開発部>