2021.07.29 【半導体/エレ商社特集】成長するMEMS産業人と機械をつなぐデバイス

26年までに市場規模2兆円へ

 1.MEMS産業の状況と今後の進展

 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems=微小電気機械システム)とは、半導体製造技術やレーザー加工技術など、各種の微細加工技術を応用し、微小な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだセンサー、アクチュエーターなどのデバイス/システムのことである。

 MEMSはIoT社会を形成する上で、情報通信をはじめ自動車、ロボットなど多彩な分野で小型・高精度かつ省エネルギー性に優れた、人と機械をつなぐデバイスとして多様な研究開発から製品化まで行われている。

 MEMS世界市場は、新型コロナウイルスの影響によって2019年と20年は低迷したものの、21年には11%成長して134億ドル(約1兆5000億円)に達すると予想されている。その後、1桁台後半の成長により、26年までにMEMSの年間収益は182億ドル(約2兆円)に増加すると予測される(Yole社市場予測)。

 新型コロナウイルスの影響は産業分野ごとに異なり、消費者需要に左右される自動車や民生機器向け市場では需要減退が生じる一方、サーマルイメージャーやフローセンサーなどが強く求められる産業分野、医療分野などでは需要増が見込まれている。

 需要減退の民生用MEMS分野に含まれるデバイスであるが、5Gの影響が大きいRF-MEMSは、20年から26年にかけて年平均12%の成長が期待される。MEMS企業トップ30社の20年のMEMS売り上げは100億ドルだが、30社に含まれる日本企業は7社で、シェアは15%となっている。

人間中心の「Society5.0」実現

 2.政府の動き

 現代社会の構造は、AIやビッグデータ、IoTなど、現実世界(フィジカル空間)とデジタルの世界(サイバー空間)を融合させる技術によって急激に変化している。

 政府はウィズコロナ、アフターコロナの時代においては、この動きが一層加速するものと考えており、持続的な経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会である「Society5.0」を実現するためにも、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるシステムが重要であることを示している。

 加えて、SDGs(持続可能な開発目標)と連動するSociety5.0の推進が掲げられており、SDGsアクションプラン2020ではSociety5.0を支えるICT分野の研究開発の推進やAI、ビッグデータなどの研究開発から社会実装までも求めている。

 このSociety5.0という概念は、16年の第5期科学技術基本計画で示された。しかし、21年3月26日に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画の中では「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靭(きょうじん)性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」を、わが国が目指すべき社会(Society5.0)とし、このSocirty5.0を国内外の情勢変化を踏まえて具体化させ、実現することが第6期基本計画策定の目的であるとしている。

自立型時刻管理デバイス/環境に優しいMEMSセンサーの研究開発進む

 3.マイクロマシンセンターの取り組み

 Society5.0とSDGsの実現の方向性が議論される中、マイクロマシンセンターではいくつかのプロジェクトの実施と新たなプロジェクトの立案を目指しているが、ここでは「自立型時刻管理デバイス」の研究開発と「環境に優しいMEMSセンサー」の戦略立案を取り上げる。

 前者は、まさに高度なIoT社会の実現に不可欠な超高精度の時刻同期を可能にするためのデバイスであり、自動車の自動走行や移動通信の高度な時刻管理などの世界では欠くことのできないものと考えられる。

 後者は、SDGsで想定される強靭な国土と質の高いインフラや循環型社会、環境保全などを考えるときに不可欠な、環境に大量に設置されるセンサーシステムについて、それらを環境調和型にするための戦略を立案しようというものである。以下に簡単に紹介する。

 自立型時刻管理デバイスに対しては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)で15~18年度に実施したセンサー端末同期用原子時計の研究開発(ULPAC)の成果を発展させ、19年度から防衛装備庁の「令和元年度安全保障技術研究推進制度(JPJ004596)」の委託事業として「量子干渉効果による小型時計用発振器の高安定化の基礎研究(HS-ULPAC=High Stability Ultra Low Power Atomic Clock)」を産業技術総合研究所、NECおよび大真空とともに実施している。

 この研究では測位衛星搭載の原子時計と同等の性能を有し、かつ手のひらサイズで低消費電力の小型原子時計を実現するための基礎研究として、原子時計の安定性を阻害する各種周波数変動要因(光の変動に起因するライトシフト、原子の衝突に起因するバッファーガスシフト、磁場変動に起因するゼーマンシフトとその相関メカニズム)を根本から解明するとともに、自動車などの移動体に搭載可能な耐振性を持つプロトタイプを試作し、その性能を車載環境で実証・評価する予定である(図1 量子干渉〈CPT共鳴〉効果を用いた時計用発振器の構造と要素課題)。

 環境に優しいセンサーについては、機械システム振興協会の令和2年度イノベーション戦略策定事業の委託事業として、「環境調和型MEMS(EfriM=Environment friendly MEMS)技術の研究開発に関する戦略策定」を実施した。

 Society5.0を実現するためには、これまでの屋内設置や機器内部への搭載が主であったMEMSデバイスをインフラ・災害・農業モニタリング分野といった屋外や自然環境で使用できるものに拡大することが期待されている。しかし、屋外の広い範囲に多数のMEMSデバイスを設置した場合、使用期限が切れたMEMSデバイスを回収することは困難だ。

 回収されず、自然界に汚染物質(圧電材料PZT、ヒ化ガリウムや鉛ほか配線材料など)が含まれたMEMSデバイスが放置されると大きな環境問題となる。このような問題を解決するため、環境に放置されても自然に返ったり、有害とならなかったりする自然に溶け込む「環境調和型MEMS技術」の研究開発が不可欠になる(図2 MEMS/センサー技術のアプリケーション展開)。

 本委託事業では、EfriMのインフラ、災害、農業分野におけるユースケース、自然に返る材料や自然の中に固定化する材料・デバイスおよび省エネ型製造技術を調査・検討するとともに、それらを組み合わせたシナリオを検討し、その絞り込みとブラッシュアップにより、インフラ、災害、農業分野で有望な六つのEfriMセンシングシステムを案出した。

 さらに、これら六つのEfriMの研究開発のために必要な横断的技術を、環境固定化技術、環境に返る技術および共通基盤技術の三つの項目に整理し、EfriMの研究開発と社会実装のための戦略を策定した(図3 環境調和型MEMSの有望適用事例と研究開発戦略)。

 今年度から、この成果を基にSSN研究会(Smart Sensing & Network=IoTシステムを支えるスマートセンシングおよびネットワーク関連の諸課題解決、技術標準化促進などのため、共通プラットフォームの構築や先端技術開発の検討などを行う研究会)の中にEfriM-WGを立ち上げ、本格的なプロジェクト化の検討を開始している。

 〈筆者=マイクロマシンセンター〉