2021.08.13 節電の夏 需要の柔軟さ創出新電力が対応 ゲーム感覚で行動変化促す

ループの節電イベントで参加者が確認する画面。日ごとの電力使用状況や獲得ポイントなどが表示される

エネチェンジなどの実証では、参加者が、電化製品の制御で節電できた電力量などをスマートフォンで確認できるエネチェンジなどの実証では、参加者が、電化製品の制御で節電できた電力量などをスマートフォンで確認できる

 冷房の使用などで夏場の電力需要が高まる間、家庭内でゲーム感覚で節電してもらう取り組みを新電力などが行っている。再生可能エネルギーが普及すれば、天候などで変動する電力供給に合わせるため、需要面で柔軟さを保つことが重要になる。自発的な行動変化の促しや家電製品の自動制御で、需要の調整力を生み出す仕組みづくりを見据えた動きだ。

得点倍増の新ルール

 「真夏の節電大作戦」と銘打って7月下旬から取り組んでいるのが再エネ系新電力のLooop(ループ、東京都台東区)だ。夏場は、家族が職場や学校などから帰宅して夕飯の支度が始まる夕方ごろから電力需要が高まる日が多い。こうした時間帯に節電してもらえる一般家庭や個人事業者らを7月上旬に募り、9月上旬までの48日間続けている。

 18年夏に試験的に導入し、19年夏から本格化させて約8600世帯が参加した。20年夏には約1万5100世帯に広がり、ホームページやメールなどでさらに呼び掛け、今夏は過去最多となる約4万2200世帯が参加。顧客全体の1割超に達する規模に拡大している。

 節電できた電力量も19年夏は計約3万6000kWhだったが、20年夏には計約11万3600kWh(一般家庭約380世帯分に相当)に増加。今夏はさらなる拡大が見込まれる。

 拡大の背景にある仕組みの肝は、参加者がゲーム感覚で取り組める気軽さだ。電力需給の逼迫(ひっぱく)が予想される時間帯を、前日の夕方に参加者へメールで通知する。日常生活に支障が出ない範囲で指定された時間帯に、洗濯機の使用をずらしたり、照明を切ったりして節電してもらう。

 節電するかどうかは参加者の自由だが、インセンティブが設定されており、参加者には節電量に応じてポイントを加算。期間中にためたポイントはネット通販用のギフト券と交換できる。電力契約プランごとに参加者間でポイントを競ってもらい、ランキング上位者にはさらに加算する。

 予想される逼迫度合いに応じて、「節電タイム」と「スーパー節電タイム」の二つの時間帯を設定。今年夏から、スーパー節電タイムには加算ポイントを倍増する新ルールも作った。「お得感を感じてもらい、参加者、節電量を拡大させていくため」(ループ)の工夫だ。

 小嶋祐輔・取締役電力事業本部長は、狙いの一つを「面白いコンテンツを提供し、当社のユーザーであり続けたいと思ってもらうリテンション(つなぎ留め)の視点もある」と明かす。

最大で10万世帯が参加

 今年夏に初めて実施するのが、東京ガス。24日から9月30日までの予定で、節電を促す。節電量などに応じて同社のウェブ会員ポイントを加算する。

 都市ガスとのセット販売などで電力小売り契約を伸ばしてきた同社は、顧客に家庭などが多いのが特徴の一つ。

 ウェブ会員にもなっている約190万の顧客に呼び掛け、最大で10万世帯の参加を想定する大規模な取り組みだ。「再エネの発電量が増えれば、出力変動に対して調整力が求められる。その確保のためにも社会的意義が大きい」(同社広報部)。

 今回は実証だが、来夏以降も継続したい考えだ。「顧客の反応や需要の抑制効果を詳しく検証する。それを踏まえ、より効果的なインセンティブの設計などを検討したい」(同社)という。

家電製品を自動制御

 家族による節電の取り組みの次に想定されているのが、家庭内などの家電製品を自動制御する計画だ。「テクノロジーの進展で、家庭内では面倒くさくて、できにくかった節電行動でも、電化製品を直接制御することで(節電が)可能になった」(ループの小嶋氏)。遠隔操作で調整するため、家族の負担感も軽減できる。

 既に、国内初とみられる実証が11月から計画されている。電力比較サイトを運営するエネルギーベンチャー、ENECHANGE(エネチェンジ)が、住友商事系の新電力、サミットエナジー(東京都千代田区)と協業。冬場の暖房需要などでの需給逼迫を見込み、200~300世帯の参加を想定する。

冷蔵庫のコンセントに専用の装置を設置し、遠隔で制御する

 家庭の冷蔵庫のコンセントやエアコンのリモコンに専用の装置を取り付ける。事前に通知した時間帯に、遠隔で装置に制御信号を送り、電源のオンオフや設定温度の変更で使用電力を抑制する。設定温度を1度変えれば約10%の省エネ効果があるとされる。

 電力事業者としては、行動の変化を求める節電と違い、確実に節電量が生み出せて予測がしやすいメリットがある。

 エネチェンジの有賀一雅・執行役員SMAP事業部長は「太陽光や風力など再エネを普及させることと、需要をコントロールしていくことは両輪で進める必要がある」と話す。