2021.08.24 Let’s スタートアップ!カミナシ“紙”の負担から現場を解放ノンデスクワーク改善プラットフォーム「カミナシ」
成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、ノンデスクワーク改善プラットフォーム「カミナシ」を提供するカミナシ。
「カミナシ」は、製造、小売り、飲食などの現場において、これまで紙で行われていた点検記録や作業記録などをデータ化し、集計から報告、改善までの現場管理業務を効率化できるプラットフォームだ。2020年6月のサービス提供開始から食品製造工場などを中心に評価が高まり、導入する企業が急増している。
ブルーカラー出身だという創業者が「カミナシ」を生み出していく経緯や、同サービスの強み、そして今後の展望などを広報の宮地さんに聞いた。
現場の“手書き情報”をデジタルデータ化
昨年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響により、企業のデジタル化が一気に進んだ。しかし、そうしたデジタル化の恩恵になかなかあずかれない人たちもいる。それが、製造、小売り、飲食などの現場で働く「ノンデスクワーカー」(ブルーカラーワーカー)と呼ばれる人たちだ。
特に、日報や作業チェック、品質管理など日々のルーティーンワークや事務作業の多くがいまだに紙とペンで行われ、現場作業者の負担を増大するとともに、それが正しく書き込まれているかを確認し、報告書を作成する作業に忙殺される現場管理者も多い。
こうした手書き情報を、デジタルデータとして記録できるようにすることで、非効率な現場の状況を改善するサービスを提供しているのがカミナシだ。
同社の現場改善プラットフォーム「カミナシ」を導入すると、現場作業者は、これまで紙に記入していた作業チェックや品質管理などの情報を、タブレット端末からクラウド上に記録できるようになる。
これにより、例えば、現場作業者はアプリケーションが指示する作業手順に従って、点検や確認を正しく実施できるほか、現場管理者は、記載内容に間違いがないか確認したり、報告書作成のために手書き情報をパソコンのExcelファイルに転記したりする作業から解放される。
また、工場や店舗を統括する運営者側も、クラウド上で一元管理されている大量のデータから現場状況を可視化するなどし、現状に即した改善策を練ることもできる。
こうした現場管理業務を効率化する仕組みが、ノンデスクワーカーを抱える多くの企業から評価され、サービス開始からわずか1年で、「カミナシ」の導入企業数は100社を突破。現在もその数は増え続けている。
現場で感じた「非効率」がきっかけに
カミナシはどのような経緯で設立されたのだろう。宮地さんは「ブルーカラーワーカーとして働いていた創業者の経験がきっかけになった」と話す。
代表の諸岡裕人は、もともと実家が大手航空会社のアウトソーシングを請け負っている会社を運営しており、幼い頃から父親から仕事の話を聞く環境で育ちました。
父親の事業はいわゆる労働集約型。人を大量に集めて空港や関連工場に派遣するといったものです。諸岡もそうした仕事に就きたいと、新卒で人材派遣のリクルートスタッフィングに入り経験を積んだ後、家業を継ぐために戻ってきました。
実家で働きながら、諸岡は機内食を作る食品工場の立ち上げや空港のチェックインカウンターなど、いろいろなブルーカラーの仕事を一通り経験。その中で「非効率だ」と感じることがとても多かったそうです。
特に印象に残ったのが、食品工場での経験です。その工場は約9割が外国人労働者で、彼自身は管理者として勤めていたそうですが、毎日作業が終わった後に、従業員が書いた作業チェック記録を確認していたそうです。
その記録は航空会社に提出するもので、書き漏れや間違いがあってはいけません。そのため、作業が終わる9時、10時ごろからチェック表の確認作業を行い、毎日夜中まで続けていそうです。
日々のルーティーンワークに忙殺される中で、新卒の優秀な人たちが「こんなことをするために会社に入ったんじゃない」と辞めていく。非効率な状況を何とかしたいと考えたことが、諸岡がカミナシを立ち上げる最初のきっかけになったそうです。
試行錯誤を繰り返した“「カミナシ」前”
親戚に起業家が多くいたこともあり、もともと起業に対する思いが人一倍強かった諸岡氏。案を練っては投資家のもとに持ち込む活動を続けるうちに、あるとき事業アイデアが枯渇してしまったという。
諸岡は、いよいよ自分の中で事業アイデアがなくなったというタイミングで、今も当社に投資いただいているベンチャーキャピタルの方々が主催する交流会に出席する機会を得ました。
ほかの起業家が事業アイデアを話す中で、事業アイデアが一切なかった諸岡は、自分が元いた食品会社の現場の話をしたのですね。
すると「まさにそれこそITで解決すべき課題だよ」とのアドバイスがあり、そこから具体的なサービス開発を始めたそうです。
最初は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用した工場内の冷蔵庫の温度などをチェックできるシステム。次は、自身の経験を生かした、食品工場の工程管理システムの開発に取り組みました。
二つ目の食品工場の工程管理システムは出資を受け、お客さまも一定数いたのですが、あらためて業界規模を考えたときに、全く事業拡大の余地がないことに気づき、再び路線変更することに。
そして今度は業界業種を絞らないサービスとして、今の「カミナシ」を開発し、昨年6月末にサービス開始したという経緯になります。実はいろいろ試行錯誤を繰り返しているのですね(笑)。
目指すのは「現場主導のデジタル化」
では「カミナシ」とはどういった強みを持つサービスなのだろうか。
「カミナシ」を一言でいうと、「現場の業務フローをデジタル化する現場改善プラットフォーム」ということになります。
製造業の会社さんなどは、生産管理システムには、大きなお金を使って開発することが多々ありますよね。私たちはそこではなく、その周辺にある業務を対象にしています。
例えば、始業と終業時の機械の点検とか、あとは毎日の業務日報とか。生産管理の仕事に直結はしないのですが、いまだに紙に記入している業務が多い。その紙の領域を「カミナシ」は拾っているわけです。
もう少し具体的にお話ししましょう。私が「カミナシ」を導入している工場の従業員で、一日の業務を終えるとしましょう。そのときには、タブレット端末でアプリを立ち上げ、手順を確認しながら、業務の進み具合や、機械の状態などを一つ一つチェックし、記録していくわけですね。
そうすると、紙で書いていたときに比べて、間違いも減り、確実に記入できるようになる。現場管理者も、私がチェックした内容を細かく確認する手間が省けます。
また、紙に書き込む場合だと、書いた後で書き直すこともできましたが、タブレット端末の場合は何時何分にチェックしたのかなどの履歴が残るので、改ざんなどの不正は基本的にできません。
もう一点、「カミナシ」の大きな強みとして挙げられるのが、現場で使う業務アプリを、ノーコード(プログラミング不要)で作ることができることです。具体的には、パソコンの管理画面上で、ドラッグ&ドロップの操作をするだけでアプリを作成できます。
一般的に、何かシステムを作るときには、ITベンダーさんが現場にやってきて、情報システム部門の人と打ち合わせして、現場ヒアリングをして作ることになります。
現場の人が作っているわけじゃないので、「求めているのはこれじゃない」といったズレも起こり得ますね。
でも「カミナシ」は、普段パソコンに多く触れる環境にいない現場の人たちでも、自ら業務アプリを作り、現場に落とし込んでいけます。このため、各現場の状況に合わせた業務アプリを作っていけるのです。
私たちは現場をデジタル化するには、これが一番手っ取り早い方法だと考えています。当社ではこれを「現場主導のデジタル化」と呼び、現場の課題を解決するための重要な仕組みの一つだと捉えています。
コロナ禍、全商談がストップ
順調に成長を続けているように見えるカミナシだが、これまでいろいろな苦労や存続の危機もあったという。
一番大変だったのは、「カミナシ」前、食品工場の工程管理システムに携わっていたときに、なかなか導入企業が増えず、路線変更することを決めたときです。
当時諸岡は、事業が伸びないと自覚していましたが、仲間に自ら「やめよう」とは言えないでいたそうです。それを見た当時のCPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)の方が気持ちを察して、「これはたぶん伸びないのでやめましょう」と言ってくれたそうです。
次はどうしようかと皆で考えていたときに、ホワイトカラー向けのサービスを始める話が出たそうです。諸岡も「そっちの方がいいかな」と一時は考えたようですが、最終的には、自分のアイデンティティーであるブルーカラー向けの事業をしていきたいと申し出た。決断をひっくり返したのです。
それで、そのCPOの方とたもとを分かつこととなりました。円満な別れではありましたが、創業時からの仲間を失うこととなり、とても辛かったそうです。
そうして路線を変更したのが2019年の11月。そこから準備期間を経て、2020年3月には「カミナシ」のベータ版を提供し始めました。
すると誰もが知る大企業から問い合わせが次々と舞い込んだのですね。「これはいける」と手応えを感じていたのですが、ここで昨年の新型コロナウイルス感染拡大が起こりました。これにより、全ての商談がストップ。いよいよこれからというときに大打撃を受けてしまったのです。
ただ、コロナ禍の“巣ごもり需要”もあって、食品工場さんは軒並み業績が好調に。さらにもともと私たちが食品工場のソリューションに携わっていたことから、サービス開始後は、食品工場さんからの問い合わせが増加。これには助けられました。
食品関連事業さんは、食品衛生管理の質向上が求められる国際規格「HACCP(ハサップ)」の施行があったこともあり、現場管理の負担を減らす「カミナシ」を導入してくれるところが増えました。
「カミナシ」は業界業種を限定しないサービスですが、まずはひとつの業界に重点を置くということで、今は食品工場に注力しているところです。
代表は太陽のような存在
宮地さんがカミナシに転職した経緯も聞いた。
前職はベンチャー企業でBtoCの広報をしていたのですが、その前は長らくBtoBの世界にいたこともあり、ベンチャーキャピタルで転職エージェントをしていた友人に、BtoBの広報ができる良いスタートアップがあれば紹介してほしいとお願いしていたのですね。
紹介された中で一番興味を引かれたのがカミナシでした。
いろいろ調べるうちに「ここで働きたい」という気持ちが抑えられなくなり、カミナシは当時、コロナ禍で広報の募集はストップしていたのですが、SNSのダイレクトメールから諸岡に、「ボランティアでも良いので参画させてください」とお願いしました。今思うとかなり強引ですね(笑)。
数日後に、諸岡から「サービス開始のときにお願いしたい」と返信があり、PRのお手伝いをさせていただくことに。
それで広報の力を実感してもらえたようです。私自身もぜひ社員として働きたいので、「今じゃなくていいので、(広報を募集するときのために)予約させてほしい」と申し出て。2020年10月に参加することになりました。
カミナシの魅力が何かと問われたら、やはり「太陽のような諸岡の存在」と答えるでしょうか。
最初にカミナシのことを紹介してもらったときに、諸岡が投資家に向けてPRする動画を見たのですね。すると、「実はぼく最初に失敗をしまして」と、「カミナシ」前の試行錯誤していた時代のことを明るく話していたんですよ。それでなんて明るい人だろうと。
代表の人柄は、不思議と「助けたい」とか「一緒に仕事をしたら楽しそう」と思わせてくれます。ほかのメンバーに聞いても、「この人とだったら、失敗してもおいしい酒が飲めそう」という人がいるくらい(笑)。
代表のそんな人柄もあって、カミナシでは無理せず、自然体で仕事ができます。そんなところにも大きな魅力を感じています。
求めるのは“現場”への情熱
最後に今後の展望を聞いた。
私たちの目標としては、「ARR(年間経常収益)100億円」というのが、事業として目指すことの一つになります。
もう一つ手前の目標としては、2023年をめどに導入社数800社を目指すことを掲げています。
そのときには、「ノンデスクワーカー」や「現場DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)」といえば「カミナシ」だよねと言われるように、私自身もPR活動をしっかりやっていきたいと思っています。
今、カミナシが求めているのは「現場ドリブンな仲間」です。
カミナシはブルーカラーの現場をDXする会社です。ですから、メンバーにはお客さまの現場の様子をぜひ見たいという情熱を持っている人が多いのですね。
今はリモートワークが中心になりつつあります。しかし、だからと言って「現場に行くのが面倒」というのは、カミナシっぽくない。やはり「お客さまの現場を見に行きたい」と強く思えることが大事です。
当社では、そういう感覚、価値観を持っている人を求めています。
- 社名
- 株式会社カミナシ
- URL
- https://corp.kaminashi.jp
- 代表者
- 代表取締役CEO諸岡裕人
- 本社所在地
- 東京都千代田区神田鍛冶町3-7神田カドウチビル3F
- 設立
- 2016年12月15日
- 資本金
- 6億3697万円
- 従業員数
- 30人(正社員)
- 事業内容
- 業務効率化ツールの開発