2021.09.16 “Bone Phone”で聴覚に未来を「メード・イン・大田区」が支える高音質

完全ワイヤレス骨伝導イヤホン「PEACE」

会話を補助する「ボーンホン」も製品化している会話を補助する「ボーンホン」も製品化している

 「生まれつき聞こえなかった左耳から音が聞こえる」「補聴器では対応できなかった音が聞こえるようになった」―。“Bone Phone(ボーンホン)"を使った人々からの感謝の声が、製品を開発したスタートアップ企業に続々と届いている。

 開発したのはBoCo(ボコ、東京都中央区)。骨伝導技術を使ったイヤホンの量産化を目指し、2015年に創業した。「Bone Conduction(骨伝導)」から社名を取っており、ボーンホンとは、いわゆる骨伝導イヤホンのことだ。
「イヤホンとは呼びたくない。骨を伝って聞いているんだから、『ボーンホン』だ」。ボコの創業者で、社長を務める謝端明氏は力を込める。

 イヤホンや補聴器は、鼓膜を振動させて蝸牛(かぎゅう)という音を聞く器官に伝える。一方、骨伝導イヤホンは鼓膜を通さず、骨を振動させて蝸牛に伝える。音の伝達方法が異なるため、補聴器では聞こえなかった音が聞こえる可能性がある。それを体験した人々からの「感謝の声」が、ボコには日々届いている。

 ボーンホンの心臓部である骨伝導デバイスは、直径10ミリメートルという世界最小クラス。小型な機器にも内蔵しやすく、特許出願からわずか2カ月という異例のスピードで認められたコア技術は、「世界のどこにもないオンリーワン、ナンバーワンのもの」と謝社長。それを安定した高品質で量産しているのが、東京・大田区の自社工場。量産機も自社開発した。

 ボーンホンは、イヤホンのように音楽などを聴くのが一般的な用途。ただ、謝社長が目指すのは「聴覚の未来を守る」こと。補聴器のような「音の増幅器」としても生かそうとしている。

 スマートフォンを使い、イヤホンなどで音楽を聴くことが増えたため、世界保健機関(WHO)は19年、世界の若者(12~35歳)のおよそ2人に1人が聴覚障害になる恐れがあると発表した。この事態を危惧し、ボーンホンで新たな道筋を示したい考えだ。

 謝社長は「人は、視力が落ちるとすぐに気づく。しかし、耳が悪くなっていることには気づきにくい」と指摘する。

 われわれが普段聞く音は全て鼓膜を通したものだ。鼓膜を通さない骨伝導は、聴覚の未来に新しい道を開くのか―。ボコの挑戦は始まったばかりだ。