2022.01.14 【電子材料特集】電子材料 次世代に照準、新素材開発を推進

先端フォトレジスト

 電子材料の技術革新が加速している。ITエレクトロニクス技術や自動車技術の高度化が進み、SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素/カーボンニュートラルへのニーズも増す中、電子材料産業には既存技術のブレークスルーのための新しい素材開発が求められる。そのため電子材料メーカー各社は、既存材料のブラッシュアップとともに、次世代に照準を合わせたR&Dを一段と強化。第5世代移動通信規格5GやCASE、次世代半導体プロセス、サステナブルなどをテーマに、コア技術を駆使した先端材料開発を推進する。旺盛な需要を背景に各社の設備投資戦略も活発化している。

 電子材料は、各種電機・電子機器をはじめ電子部品・半導体・ディスプレー、自動車/車載電装システム、FA/製造装置、通信・社会インフラなどの技術進化を支えるコアとして、重要な役割を担っている。

 日本の電子材料産業は、高い技術開発力や高品質・高信頼性、高度なプロセス技術、継続的なイノベーション、顧客へのソリューション提案力などを武器に、あらゆる機器やシステムのイノベーションに貢献し、国内外で高く評価されている。中でも、先端デバイス用素材や半導体プロセス素材などの分野では、日本の材料メーカーが5割超のグローバルシェアを確保している素材分野も少なくない。

 電子部品メーカー各社はIoTやAI(人工知能)、5G、次世代モビリティー、脱炭素/カーボンニュートラルといった新潮流が進む中で中長期の成長戦略を一段と強化。

 特に自動車のCASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード&サービス、エレクトリック)をメガトレンドとした技術進化や、普及が本格化する5G通信(端末、インフラ)分野においては、これらを支える新しい電子材料が投入されている。

 サステナブルへの対応でも電子材料技術は重要な鍵を握る。各社はこれらの技術進化に照準を合わせ、中長期的な視点に立った技術開発やマーケティング戦略、投資戦略を強化し、継続的な成長を目指す。

 アプリケーション別では、「100年に一度の大変革期」とされる自動車関連分野への取り組みが加速。最近は、世界的な環境保全ニーズの高まりを背景に、2020年後半以降、各国政府や主要自動車メーカーの「xEVシフト前倒し」の動きが加速しており、これらに対応するパワーエレクトロニクス系素材や電池材料、自動車軽量化素材などの開発がいっそう活発になっている。

 スマートフォンやタブレット端末、ウエアラブル端末などの高機能モバイル端末向けでは、5Gでの高速大容量通信を支える新規材料開発や、スマホの高密度実装化に対応する高性能材料、次世代ディスプレー材料などの開発に尽力。

 半導体関連では、次世代半導体プロセス材料の開発・事業化の動きが活発だ。半導体露光分野では、次世代露光技術であるArF(フッ化アルゴン)やEUV(極端紫外線)リソグラフィーに向けたプロセス材料開発や供給体制拡充の動きが見られる。

 半導体の処理速度の高速化やデータの大容量化、高集積化により半導体チップの回路パターンの微細化が進んでおり、半導体プロセス材料メーカーは、次世代ニーズを満たす新素材をいち早く開発することで、業界標準の獲得を目指す。

 車載・産機分野の次世代パワー半導体開発では、SiC(炭化ケイ素)材料やGaN(窒化ガリウム)材料の開発、生産能力増強の動きが進展。さらに、SiCやGaNよりもコスト性能に優れるワイドバンドギャップ材料として、酸化ガリウムの技術開発も進んでいる。

 このほか、次世代ディスプレーや次世代省エネ照明、航空機やドローンの軽量化を支える新規材料開発などにも力が注がれる。

 環境/エネルギー関連では、リチウムイオン電池(LIB)/全固体電池や太陽電池、燃料電池、蓄電システムなどのイノベーションのための材料開発が強化されている。

 加えて、サステナブルニーズへの対応においては、世界的な食糧不足問題への対応や、マイクロプラスチック(MPs)問題に対処するためのマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルも重要視されている。

 最近の電子材料市場は、20年前半は新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な経済活動の停滞を受けて減速したが、リモート/巣ごもり需要の増大や、夏以降の米中自動車市場回復などを背景に、20年後半には需要が回復した。

 21年も前年後半からの勢いが継続し、高水準の受注状況が続いた。一方で、21年2月に米テキサス州で発生した大寒波により、同州に立地する化学メーカープラントの操業が長期にわたって操業停止となったことなどを受け、21年は世界的な原材料不足が顕在化した。

 特に一部の樹脂材料や金属材料では価格高騰と入手難が深刻化し、21年後半もそうした状況が継続。材料メーカー各社は、原材料確保のための購買ルートの見直しなど、さまざまな取り組みを進めている。

成長継続見込む

 22年の電子材料市場は、世界的な自動車生産回復や5Gの普及拡大を追い風に、成長の継続が見込まれている。5Gや自動車、データセンター投資の増大により、半導体プロセス素材の需要も21年に続いて高水準が予想される。

 FA/ロボット関連材料の需要も当面は好調さが続く見通しだ。加えて、多彩な産業分野でのIoTやAIをキーワードとした技術革新が、新たな電子材料需要を創出する。

 IT・エレクトロニクス技術の変化のスピードが増しており、電子材料業界でもM&A(買収・合併)や企業間アライアンス、国内外スタートアップとの連携などの動きが活発化している。オープンイノベーション戦略を重視する企業も多く、ICT、モビリティー、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどさまざまな分野でオープンイノベーションへの取り組みが展開されている。

 各社の投資戦略も積極性が増しており、国内外での新プラント建設や海外での営業・技術サポート拠点の拡充といった動きが拡大。生産プロセス改善では、AIを活用したデジタル革新による生産性向上に注力している。技術開発や研究開発のスピードアップを目的にマテリアル・インフォマティクスへの取り組みも進む。

 併せて、電子材料各社では、50年などを見据えた「長期ビジョン」策定の動きも盛んで、「2050年カーボンニュートラル」実現のためのロードマップを公開する企業も増加している。

 日本の電子材料技術は、今後もあらゆる産業分野の技術変革や脱炭素社会の実現に向けた担い手として、重要度が増していく。