2022.09.16 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<102> アジャイルによるDX推進者の早期戦力化④

従業員が推進者に

 自社においてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する際、外部業者へ丸投げするよりも従業員がDX推進者となるほうが失敗しないといわれている。それは、DX推進者のスキルで最も重要なものが自社のビジネスと課題に〝精通〟していることだからだ。

 ここでいう精通とは、自社の機密データまで踏み込んで課題解決できることまでを含む。つまり、機密情報まで外に丸投げするわけにはいかないため、外部事業者だと正確なデータを基にしたDXがやりにくいということになる。

 半面、従業員の中からやる気のあるDX推進者を選ぶのであれば、機密データまで踏み込んだ変革ができるが、必要なデジタル技術の全てを習得させるのも難儀で、どちらにせよ大変な話だ。

 そこで前回、ワイヤレスIoTやデータサイエンス、人工知能(AI)、5Gといったデジタル技術を一人で持ち合わせる〝スーパーマン〟による変革を目指すのではなく、一人一人が専門性を持ちながら、全員でデジタル技術を活用して課題解決するチームを作ることが現実的だと述べた。

 最近、データサイエンスを学べる大学や高等専門学校、専門学校が増えてきている。カリキュラムの中にはAIも含まれる。そうなるとデータサイエンスに強い人材は、採用人事によって確保できる可能性が高くなっているということになる。問題なのは、ワイヤレス(無線技術)とIoT、さらに5Gに強い人材の確保だ。

 例えば、データサイエンスとAIに強い従業員によって構成されたDX推進チームがあるとする。チームの目標は、現場の設備や作業者の映像データを活用して課題解決すること。そこに、無線技術をベースに5Gを学んだ経験のある人材が加入したとしよう。

 その人はいかにしてチームメンバーにローカル5Gの必要性を理解させるか? 

 もしかすると技術経験のある人材のアイデアがいくら理路整然としていても、チームのメンバーには馬耳東風で、その結果「映像データを運ぶだけなのでWi-Fiで良い。免許が必要で面倒なローカル5Gは不要だ」と言われ、四面楚歌になるかもしれない。

 そこで、前々回説明したラーニングアジリティーを思い出そう。

 その中で、「対人関係のリスクテイク」として、あえて対立するかもしれないリスクを冒して〝相手との相違点〟について話し合い、間違いを認め合いながら学習することについて触れた。

 この考え方に基づくと、まず「相手は無線についてよく知らない」と腹をくくり、躊躇(ちゅうちょ)なく話しかけることが大切だろう。例えば、知識のある人にとっては当たり前の周波数の違いによる「電波伝搬特性」や「伝送速度」の違いについても知らない人は多い。DX推進チームには「干渉」や「混信」さえも外国語のように聞こえている人がいるかもしれない。

即座に用語を解説

 したがって、知識のある人間はその都度チームメンバーに「分かりますか?」と確認してフィードバックを求めることが重要だ。もしけげんな顔をされたら、即座に無線用語を解説すればよい。相手にとっては学習のチャンスになるので、地道に進めるほうがよい。

 これを繰り返していくうちに、外国語のように聞こえていた無線用語の意味がつかめるようになり、チーム内での会話の中身も、やるべきことに対する認識もグッと高まるはずだ。逆に、無線の固定概念に縛られないチームメンバーから、思いがけないアイデアが出て来るかもしれない。双方で学習しながら高められるということになる。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉