2022.11.16 【高専制度創設60周年特集】「KOSEN」として世界へ 国立高等専門学校機構 谷口功理事長に聞く

 日本独自の教育制度でもある高等専門学校は「KOSEN」として世界へ-。高専制度創設60周年を迎え、高専は次のステップに入ろうとしている。「社会に役立つことを常に考え、チャレンジを続ける高専生と高専卒業生に、もっと光を当ててほしい」と話す国立高等専門学校機構・谷口功理事長に話を聞いた。

 -60周年を迎えましたが、現状をどうみていますか。

強みは〝チャレンジ精神〟

 谷口理事長 60周年は還暦で赤子に戻ってもう一度生まれ変わるという意味もあるが、次のステップに行くよい節目だと思っている。高専は日本の中堅技術者の育成が目的だったが、時代は変わり生産現場はアジアに移った。そうした中で今までと同じことをしていては国際競争に勝てない。生まれ変わり、次の段階で新しい価値を生み出さないといけない。

 高専制度は日本が生んだユニークな教育で、5年で教養習得から実験や実習、インターンなどまである。社会で生かせる技能を身に付けているため、高専卒業生は20歳にして一般的な4年生大学卒業以上の力を持っている。ただ、これらが十分に周知されていない。もっと高専の良さを知ってもらえるよう高専機構として国内外に働き掛けている。

 -高専生の強みはどこにあるとみていますか。

 谷口理事長 一番はさまざまなことに臆せず挑戦する、チャレンジ精神を持っていることだ。大学などで教育を受けると安定志向になりがちだが、高専生はチャレンジを忘れない。いま成長しているアジアの企業などは常に新しいことにチャレンジしている。日本はその観点からも負けているように感じる。企業や社会で「失敗してもよい」という雰囲気をつくっていくことが新しい時代を乗り切るために必要だと感じている。

 次に何事に対しても「説明できること」だ。高専教育は理解することは当たり前で、「なぜなのか」「何に使えるのか」を説明できることを重視している。併せて社会に役立っているかまで考えて行動させている。自分が取り組んでいることが役立っているか、「ありがとう」と言ってもらえるかを意識させている。病気を治すのは病院の医者だが、社会の課題を治すのが高専で、「ソーシャルドクター(社会のお医者さん)」と言っている。

 -これから高専をどのようにしていきたいと考えていますか。

 谷口理事長 国立高専は英語で「National Institute of Technology」だが、今は「KOSEN」を前面に出している。世界標準にして日本が作った高等教育のシステムであることを打ち出し「世界の高専」にしていきたい。世界に職業学校などは存在するが、高専は大学レベルの知識を持ちながら実務も習得しているため、社会のために尽くせる人財を育てている。

 実際に世界から注目されつつある。「優秀な論文を書く学生はいるが社会は変わらない」という相談も多い。そういう所にこそ、高専教育が生きるはずで「KOSENのおかげで自国が発展した」と言われるようにしたい。

 -高専生や高専関係者へのメッセージをお願いします。

仲間ともっと助け合おう

 谷口理事長 高専生も卒業生も本当に頑張っている。高専卒は大卒以上のレベルだという自信を持ってほしい。チャレンジ精神を忘れずに起業してもよいし、先輩などともっとつながってほしいと感じている。仲間と助け合えば大きなことができるかもしれない。約50万人の高専卒業生とつながることで新しい世界が見えるかもしれない。

 高専の先生も、もっと自信を持ってほしい。研究中心の大学の先生と比較しがちだが教育では高専が勝っている。どんな人財を育てているかということを、自信を持って伝えてほしいと思う。大学に進む生徒も多いが、大学の先生には、ぜひ高専卒業生を一緒に育てていく気持ちを持ってほしい。高専生を受け入れる企業は年齢で初任給を決めず、能力でみてほしいと思う。社会全体で高専の良さを知っていくことで、日本は世界で戦っていけると信じている。