2023.05.27 【日刊自動車新聞×日刊電波新聞】 「自動車技術の最新トレンド」(3)自動車部品の環境対応

日産はグリーンアルミを「セレナ」や「エクストレイル」などに採用していく

 二酸化炭素(CO₂)の排出量削減など、自動車における環境対応は喫緊の課題だ。CO₂削減は走行時だけでなく、製品の製造、使用、廃棄までを通したLCA(ライフサイクルアセスメント)視点での対応が不可欠であり、より環境負荷の少ない材料への置換やリサイクル素材の採用などが求められている。「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」でも、多くの出展企業が環境負荷低減の取り組みをアピールしていた。一方で、環境負荷の少ない素材の導入にはコスト面の課題が障壁となっている。環境負荷低減とコストを含めた商品競争力をどう両立するかが、自動車部品の環境対応の鍵を握っている。

 走行時のCO₂削減のわかりやすい例として電気自動車(EV)が挙げられる。ただ、充電する電気がどのように作られたかによってEVの環境負荷は大きく変わってしまう。火力発電の割合が高い日本では、ハイブリッド車(HV)の方がLCA視点でのCO₂削減効果が高いと言われている。

 CO₂削減は、LCAでさまざまな取り組みが求められている。ただ、走行時のCO₂削減は燃費基準などの定義でルール化されているが、製造時に排出する温室効果ガス(GHG)を可視化する「カーボンフットプリント(CFP)」などを踏まえた、公平な評価に必要なCO₂の実測や評価方法については国際的なルールはまだできていない。

 唯一、欧州連合(EU)が、2024年から電池の製造や廃棄時におけるCFP表示を義務づけることを決定した。これもGHGの排出規制を通じて、EU域内に電池産業を呼び込んだり、EU域外からの輸入を防ぎたい思惑も透ける。

 CFPの算定や開示自体は欧州が先行している。自動車業界ではドイツでBMWやフォルクスワーゲン、シェフラーなど自動車メーカーとサプライヤー10社が参画し、データ交換基盤「カテナーX」の利用組織「コフィニティーX」を今年2月に発足。各社はカテナーXを活用してCO₂排出量の正確な把握や開示に努める考えだ。

 実際に環境対応の動きは欧州勢が目立つ。「欧州は自動車メーカー、化学メーカーともに素材のバイオマスやリサイクルが活発」(大手化学メーカー担当者)だという。特にリサイクル製品の活用が進んでおり、欧州メーカーの間では「再生材の活用を取引要件とする動きも出てきた」(同)と説明する。この動きは「日本企業も影響を受け始めている」とも話す。

先行する欧州に日本も対応始まる

 日本でも自動車メーカーや大手部品メーカーが、CO₂排出削減に向けた取り組みを始めている。

 日産自動車は、取引するティア1(一次サプライヤー)の脱炭素化に乗り出している。脱炭素化の目標を策定し、コスト上昇分の一部を部品価格に転嫁することも容認する方針だ。合わせて二次以降のサプライヤーに同様の取り組みを促したり、支援したりすることを一次サプライヤーに求め、サプライチェーン全体のGHG削減を進めていく狙いだ。

 具体的には、生産する部品などに応じてティア1を区分し、それぞれ生産拠点や品目ごとの脱炭素化目標と達成手段の策定を要請している。これはメーカーによって使う材料や設備、エネルギーが異なるためで、同一区分の企業間で好事例を共有することで対策の実効性を高めていく。

 また、日産が集中購買してサプライヤーに支給するアルミ材も「グリーンアルミ」に切り替えていく。今年1月から太陽光発電の電力だけで電解精錬したグリーンアルミ原料を使ったアルミ板材を神戸製鋼所から調達し始めた。今後もグリーンアルミの調達量を増やすとともに、サプライヤーに支給するアルミ材料の大半をグリーンアルミに切り替えていく方針だ。

 素材メーカーも脱炭素化の取り組みを積極化しており、今回の人とくるまのテクノロジー展でも環境負荷軽減をアピールしている展示が多数見られた。住友化学は「モノづくりの責任にモノづくりで応える」をテーマに出展。リサイクル技術を活用した新ブランド「Meguri(メグリ)」の第1号製品であるリサイクルアクリル樹脂を展示した。

住友化学が展示したリサイクルアクリル樹脂

 同社は自動車のブレーキランプカバーなどを熱分解し、新品の樹脂にする技術の実証と量産化を目指して取り組んでいる。ほか、木材繊維を用いた再生ポリプロピレンや、車載用レーダーのカバーなどに使われるポリカーボネート(PC)にも再生材を40%使った製品を展示した。

 三菱ケミカルも、PC樹脂「XANTAR(ザンター)」でリサイクル素材を混ぜたものが提供可能と説明する。現状は最高60%まで混合可能だが、自動車向けではまだ採用事例がないという。

 素材のリサイクルは、自動車向けならではの過酷な使用環境において品質や耐久性、対候性を保ちながら、新品素材(バージン材)に近いコストで供給できるかが大きな課題となる。「リサイクル比率を上げるとコストが高くなる。選別して粉砕、洗浄、新たなペレットにといった工程において、粉砕と洗浄にコストがかかる」(三菱ケミカル)。

 住友化学は「廃材集めと設備のキャパシティー」をコスト課題に挙げる。リサイクルで集める廃材の量は限られており、大量生産が難しい。このため設備コストも大量生産に比べて相対的に割高となってしまう。現状では、自動車メーカーのコストへの許容は難しく、「コストがバージン材と一緒だったら使いたい」というのが実態だという。

 素材メーカーだけでなく、部品サプライヤーもリサイクル材の活用を進めている。ヴァレオジャパンは日産「セレナ」に採用されたエアコンユニット「HVACユニット」の樹脂部品のうち、8割をリサイクル材とした。自動車用に必要な高品質な再生プラスチックを調達し、苅田工場(福岡県苅田町)で製造している。仏ヴァレオ本社では100%再生樹脂を用いた製品の開発にも取り組んでいる。

ヴァレオの再生プラスチックを用いたエアコンユニット

 一方、再生材の活用には製造過程でのCO₂排出量など、寄与度を見定める必要がある。ヴァレオは再生材の活用に加えて、廃車の部品を修理して手を加えて新品同等の性能に再生する「リマン」なども活用し、CO₂削減を積極化していく考えだ。

(日刊自動車新聞)

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