2023.05.25 【日刊自動車新聞×日刊電波新聞】「自動車技術の最新トレンド」過熱するEVビジネス〈下〉

ジェイテクトはeアクスルとデフを一体化して小型化を図る

サプライヤーによるeアクスルの提案合戦

 日本メーカーのEV事業強化に合わせて、自動車サプライヤーもEVシフトの動きを鮮明にしている。今回の人とくるまのテクノロジー展の会場でもEV関連製品を多数展示しているが、特に目立つのがモーターやインバーター、減速機などを一体化した「eアクスル」だ。

 トヨタ系サプライヤーのジェイテクトは、EV用eアクスル向け超小型デファレンシャル「ジェイテクト・ウルトラ・コンパクト・デフ」(JUCD)や、新開発の遊星減速キャリア一体JUCDを展示した。

 遊星減速キャリア一体JUCDは、遊星減速ピニオンギヤと遊星減速キャリア、JUCDを一体化した製品で、モーターとデフを同軸上に配置するeアクスルに対応する。モーターとデフがオフセット配置される一般的な3軸式eアクスルに対して、モーターとデフを同軸上に配置すると小型化に有利だ。

 同社の自動車事業本部の繁田良平プロジェクトマネージャーは「リアのeアクスルでは、トランクや3列シートなどで搭載スペースに制限がある」と指摘。「今後はリアを中心に、同軸タイプが増えるのではないか」と受注拡大に期待を示した。

 同じくトヨタ系サプライヤーでeアクスルの開発を加速するアイシン。ブースで来場者の関心を集めていたのが、超低損失の軟磁性合金「ナノメット」を用いた超効率モーターだ。同社が昨年6月に資本参加した東北マグネットインスティテュート(宮城県名取市、宮武孝之社長)が開発したナノメットを、モータコア・ステーター(固定子)に加工した。

超低損失の軟磁性合金「ナノメット」を用いた超効率モーター(アイシン)

 従来の電磁鋼板を用いたモーターと比較してエネルギー損失を半減できるのが特徴で、モーターの損失を軽減することで、EVの電費を3%以上向上させるという。

 実用化への課題は、積層や加工など技術面で、ナノメットの厚さは25マイクロメートルの薄帯形状と、一般的な電磁鋼板の10分の1となるため、生産技術開発を進めているという。EV推進センター第1EV先行開発部モータ開発室第3グループの恵良拓真グループ長は「2020年代中に何らかの形で市場に出したい」と話す。

 日産系サプライヤーのジヤトコは、軽自動車EVへの搭載を想定したeアクスルの試作品を展示した。数年以内の量産を計画しており、主要取引先である日産以外の完成車メーカーへの拡販も視野に入れる。好調な軽EV販売を追い風に、同社が30年のeアクスルの生産目標として掲げる500万台のうち、同製品で最大2割弱程度を見込む。

今回の人とくるまのテクノロジー展で初公開した軽EVへの搭載を想定したeアクスルの試作品(ジヤトコ)

 ジヤトコは日産と共同でeアクスルを含む電動パワートレインの開発を行っているが、自社独自のeアクスル製品の開発も進めており、このうち軽EV向けで初めて量産化のめどをつけた。

 開発した試作品は「15インチのパソコンに収まるほどの大きさ」(担当者)で、出力約60kWを実現。コンパクトカー向けにも転換できる仕様とし、小型車のニーズが高いアジア地域などグローバルで提供していく考えだ。

 EVのパワートレインであるeアクスルは、エンジン車でいえばエンジンやトランスミッションに当たる。

 これまでエンジンやトランスミッションは、主に自動車メーカー自身が内製していた。いわば、自動車の商品力の鍵を握る重要な構成部品だ。サプライヤーによるeアクスルの提案合戦から見ても分かる通り、EV時代では自動車メーカー自ら手掛けるものから、調達部品の一つに置き換わることが予想される。

 自動車メーカーは、「100年に一度の大変革期」といわれる自動車産業の環境変化に合わせて、開発リソースをハードからソフトへと移行している。eアクスルもその一例といえる。テスラが新たな価値観で支持を得たように、EVシフトは環境対策を目的とした単なるパワートレインの置き換えだけでなく、自動車そのものの価値や産業構造を大きく変えるターニングポイントになる可能性を秘めている。

(日刊自動車新聞)

日刊自動車新聞とは

日刊自動車新聞ロゴ

日刊自動車新聞は、1929年(昭和4年)創刊の世界最大級の自動車専門紙です。日本の基幹産業である自動車にフォーカスし、最先端の製品や技術をはじめ、開発から生産、流通、サービス、アフターマーケットまで幅広い分野を取材。自動車業界の今を、新聞およびwebでお伝えしています。