2023.05.26 【日刊自動車新聞×日刊電波新聞】 「自動車技術の最新トレンド」(2) エンジンサプライヤーの生き残り策〈下〉

リケンのブラシレスDCモーターと減速機

 将来的なパワートレインの方向性が不透明な中で、日本の自動車メーカーやサプライヤーはEVとエンジン車の両面作戦の構えを取っている企業が多い。同様にエンジン関連サプライヤーもEVシフトを見据えた新たな動きを積極化している。

 代表的なのが、ピストンリングサプライヤー大手であるリケンと日本ピストンリングの経営統合だ。両社はエンジン関連部品事業の縮小は予想されるものの、エンジン車自体の需要は一定程度残るとみており、エンジン部品の開発と生産を効率化することで事業競争力を高めた上で、電動化対応など新たなコア事業の創出を目指す狙いだ。

 両社は2022年7月に基本合意しており、5月23日に経営統合に関する最終契約を締結。株主総会を経て10月2日付で共同持ち株会社「リケンNPR」を設立する。

22年7月に基本合意を発表したリケンの前川泰則社長(左)と日本ピストンリングの高橋輝夫社長

 今回の「人とくるまのテクノロジー展」でも、エンジン関連サプライヤーによる新製品などの提案が目立つ。

 日本精工はEV向けのベアリングを中心に展示。EVはモーターが低速でも最大トルクを発生させられるため、EVに変速機を搭載しないケースも少なくない。ただ、モーターの小型化はトルクが減少するため、駆動力を保つにはEVでも変速機が必要との見方もあり、同社はここに商機を見いだす。

 展示品の一つである「パワーフロースイッチングデバイス」は、モーター、クラッチ、ブレーキを一体化することで、EVの2段変速化を実現する。

 同機構でクラッチとブレーキのオン・オフを切り替えることで、一つのモーターで「高速時」「低速時」「停車時」にそれぞれ最適なトルクを実現。これによりEVの航続距離の延伸と動力性能の向上が図れるという。同機構はeアクスルなどにも採用を見込んでいる。

 フタバ産業は、バッテリー冷却プレートなどの新製品開発に取り組んでいる。

 展示したプレートはアルミとステンレスの2種類で、薄肉ステンレスの開発品はアルミと比較してコストを半減できる。これは既存製品で培ったレーザー溶接技術や熱マネジメント技術を生かして開発した。

 横田利夫技術本部長は「ボディー部品を手がけていることや、外販設備事業として客先に組立設備を納入しているなど、開発品の周囲のエリアを手がける強みを生かして新製品の提案を進めたい」と説明する。

 ピストンリング大手のTPRは、将来的にエンジン関連部品の売り上げ減少が予測される中、2040年に想定する売上高1400億円のうち500億円を新事業とする「両輪経営」を掲げている。

 中でも将来の成長を期待するのがカーボンナノチューブ(CNT)だ。同社のブースでは先進運転支援システム(ADAS)用レーダーなどを想定し、電波ノイズを抑制する「次世代通信ノイズ対応 CNT電磁波吸収材料」などへの適用を提案している。

 リケンは、小径で薄型のブラシレスDCモーターと樹脂製の減速機などを展示。経営統合を予定する日本ピストンリングも、小型モビリティーへの適用を目指す「可変アキシャルギャップモーター」や、3D積層造形といった新技術を用いた提案を積極化している。これらの提案などを基に両社は今後、新規領域の事業化に向けた戦略を協議していく方針だ。

 このように日本のエンジン関連サプライヤー各社は電動化対応製品に力を入れているが、事業転換の状況は各社まちまちなのが実情だ。

 その一方で、海外サプライヤーの動きは速い。トランスミッションが源流のZFは、開発中の800Vのeアクスル「EVSys800」を展示。モーターと減速機を同軸に配置したコンパクトなデザインが特徴で、複雑な「遊星歯車機構」を用いているが、長年のノウハウで異音や振動を抑えている。

 ボルグワーナーも開発品を含め、出力が異なる計7機種のeアクスル「統合ドライブモジュール(iDM)」をラインアップする。

 車載モーターは充電時間短縮や航続距離のさらなる伸長、高出力化を目指し、800Vの電圧を採用する車両も増えている。高電圧化のトレンドに追従しながら、同時に半導体メーカーと協業してモジュールて提案する取り組みは、電動化対応を積極的に進める各社共通のトレンドといえそうだ。

(日刊自動車新聞)

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