2023.07.11 【家電総合特集】オーディオ/ホームシアター
本格オーディオの音質を楽しむファンも多い
リアルイベント復活で活気
若年層の取り込み進む
オーディオ業界に活気が戻ってきた。新型コロナウイルス感染症の5類移行によって試聴会などのリアルイベントが各地で復活している。オーディオファンにとって試聴会は、触れる機会の少ないさまざまな高級オーディオの性能を体感できる絶好のチャンスだ。
一方、テレワークの定着で、完全ワイヤレスイヤホンといったカジュアルに使えるオーディオ機器が幅広い年齢層に浸透。高級オーディオでも無線技術を生かしてカジュアルに使える提案が進むなど、需要の掘り起こしにも力が入る。
先月24、25日に東京・有楽町の東京国際フォーラムでオーディオ関連の展示会「OTOTEN2023」(主催=日本オーディオ協会〈JAS〉)が開催された。開幕と同時にオーディオファンが各社のブースを埋め尽くし、試聴コーナーは満席状態が続くほどの盛況だった。
出展した英国のオーディオメーカー・KEF日本法人の滝澤正昭マネージャーは「人が入り過ぎてお待ちいただいている状態。普段聴けないハイエンドオーディオを聴きに来られる方が多い」と、手書きの「満席」という張り紙をブース入り口に出しながら話した。
スピーカーやアンプ、プレーヤーといった高級オーディオでシステムを組み上げる「ピュアオーディオ」は、年配者層を中心にファンが多い。昨年のOTOTENの来場データにはなるが、55歳以上の来場者が全体のほぼ半分を占めた。ただ、39歳以下の比較的若い年齢層が21%を占めるなど、若い世代の関心も決して低くないことを裏付ける結果も出ている。
オーディオ市場の活性化には若年層の取り込みが不可欠で、IoT化の時代へと突入したことで業界もターニングポイントを迎えていると言えそうだ。
ピュアオーディオには確実なファン層が存在する。ホームシアターとして本格的に使う人もいる。
同時に、コアなファン層ばかりでなく、よりオーディオ機器を身近な存在とするようなカジュアルな訴求もオーディオ各社には求められるところだ。例えばKEFは、高級スピーカーながらWi-Fiやブルートゥース(BT)などに対応し、音楽ストリーミングサービスのアプリから気軽に試聴できるようにするなど、各種機器をそろえなくても高音質を楽しめるようにしている。
高級オーディオの敷居を下げるような製品が登場する一方、オーディオへの関心を高める入り口となるのが、普及が進む完全ワイヤレスイヤホンやBTスピーカーだろう。
特に完全ワイヤレスイヤホンは、移動中にスマートフォンで動画を視聴したり、音楽を聴いたりするのに使われるだけでなく、テレワーク中のウェブ会議でも利用される。
耳に挿し込むカナル型のほか、周囲の環境音も聞こえるオープンイヤー型や骨伝導タイプなど種類も増えている。好みによってタイプを選べる上、さまざまなメーカーから製品が登場しており、低価格な製品から高級機まで幅広い。
ヘッドホンでも無線対応が進んでいる。より高音質を求めるユーザー層からの支持が厚く、若年層の利用も少なくない。
完全ワイヤレスイヤホン「AVIOT」の展開で若年層にも浸透しているプレシードジャパン(東京都渋谷区)は、同社初の本格的なワイヤレスヘッドホンで、ロックバンド「凛(りん)として時雨」のピエール中野さんを起用。本格的な製品ながら購入しやすい価格帯で販売し、若年層への浸透を狙っている。こうした製品展開は、オーディオファンの裾野を広げるきっかけになる。
BTスピーカーも幅広い層から人気の製品で、「一家に複数台」といった家庭も増えている。日本のワイヤレススピーカー市場において5年連続で販売台数トップのJBLブランドから、自転車やバッグなどに取り付けて音楽を楽しめるBTスピーカーが発売されるなど、スマホの音源を再生できるという使い勝手は、さまざまなシーンに広がりを見せている。
日本ではなじみの薄いパーティースピーカーも眠った需要を掘り起こす可能性がある。友人を招待してホームパーティーを開いたり、海辺に持っていって場を盛り上げたりするためのスピーカーだが、2019年にハーマンが日本で発売したところ、22年までの4年間で、19年比で販売が6倍以上に増えた。
コロナ禍により自宅の庭を使ったキャンプや、バーベキューなどのアウトドアが人気となった。そうしたシーンでも使えるスピーカーだけに、潜在需要を掘り起こした可能性がある。
スマホとの連携などIoT技術の進化で、オーディオもこれまでと異なる使い方やシーン提案が可能になった。ピュアオーディオというと敷居が高いイメージを抱く消費者も多いが、今の時代、オーディオ機器はより身近な存在になっているとも言える。
大画面4Kテレビの普及で、プロジェクターの導入までには至らなくても、ホームシアターのように本格的に利用しようとする需要もある。オーディオにはまるきっかけは市場に多く存在し、それらを市場の活性化にもつなげられるはずだ。