2023.09.07 【コネクター技術特集】EV市場に向けた超音波接合による結線技術開発 日本航空電子工業

図1 超音波接合概略図

 近年の環境意識の高まりにより、世界の電気自動車市場はますます拡大しつつある。電気自動車の充電部や駆動部、インフラ側の充電器の接続では、通電時の発熱を抑制するためのケーブルの太径化や、それに伴うケーブル軽量化としてのアルミニウム線を使った結線が推進されている。超音波接合は、太径ケーブルやアルミニウムケーブルで低抵抗接続を実現するための結線手法として、その利用が拡大している。本報告では、当社でこれまで行ってきた銅ケーブルやアルミニウムケーブルを用いた超音波接合による結線技術開発の取り組みについて紹介する。

1.はじめに

 世界の電気自動車市場は、近年の環境意識の高まりによりますます拡大しつつある。電気自動車の充電部や駆動部、インフラ側の充電器の接続では、数百Aという大きな電流が流れるため、使用されるコネクターハーネスでは通電時の発熱を抑制する必要があり、ケーブルの太線化が進んでいる。また、太線化に伴い重量が増加することから、ケーブル導体は銅からアルミニウムへの切り替えも進んでいる。ただし、銅線、アルミニウム線にかかわらず、ケーブルが太くなることにより芯線数が増加し、結線時に芯線同士に生じる電気抵抗が増加するため、結線手法に対しても工夫が必要となる。

 車載で使用される結線では主に圧着が使用されている。圧着の場合、端子が芯線をかしめていく際にかかる応力で芯線表面の皮膜が破壊されることにより、抵抗が安定していく。また、端子内側にセレーションを設けることで端子と芯線間の抵抗をより効果的に下げる構造となっている。しかし、上記で使用される太線の芯線数では、セレーションに接しない芯線数が多く十分に酸化皮膜を破壊できないため、抵抗を下げることが困難となる。

 この太線結線の低抵抗化を達成するために、昨今、超音波接合を使った結線の利用が拡大している。超音波接合は、端子とケーブル導体に荷重を加えた状態で超音波を印加することで、芯線表面や端子表面の皮膜を破壊し新生面同士を固相拡散接合させる手法である。

 当社においても、超音波接合による結線の技術開発を推進しており、電気自動車向けのパワー系コネクターの結線手法の主力となりつつある。本報告では、これまで行ってきた銅ケーブルやアルミニウムケーブルを用いた結線に対する取り組みを紹介する。

2.超音波接合
2.1.超音波接合

 超音波接合は金属接合の中の固相接合の一つになる(表1)。端子とケーブルの接合では、概略図(図1)に示すように接合アンビル上に端子およびケーブル導体を設置し、これらの上部から接合チップで荷重を加えた状態で、超音波振動を印加する。金属接合の場合、一般的に超音波の周波数は20kHz、振動振幅は数十μm程度で行われる。この振動と荷重により、ケーブルの芯線同士は摩擦を繰り返し、表面の皮膜が除去された互いの新生面が接近し接合する。これを繰り返し、最終的にケーブル導体と端子界面の接合に至る。

表1 金属接合の種類

 超音波接合は、金属の接合に対し次のようなメリットが挙げられ、前述したコネクターハーネスの用途に非常に適した接合手法であると言える。

・非鉄金属や異種金属の接合が容易である。

・接合部以外への熱の影響が小さい。

・電気的な性能が優れている。

2.2.超音波接合の性能評価
2.2.1.接合強度の測定方法

 超音波接合を行った接合部材の接合強度測定方法の概略図を図2に示す。接合部の上下を挟むように、端子先端部と逆端の導体部を引張圧縮試験機に固定した状態で、速度100mm/minでケーブル長手方向に引っ張った時の引張せん断荷重の最大値を測定した。

図2 引張せん断試験

2.2.2.接合部の電気抵抗測定

 超音波接合を行った接合部の抵抗測定の方法を概略図(図3)に示す。まず、端子とケーブル逆端の導体部を図のように配線し、四端子法にて1A通電時の電圧降下Vから接合部材全体の抵抗を算出する。同様に1A通電時の電圧降下V 0から接合部材と同等長さのケーブル導体抵抗を算出し、全体の抵抗値から差し引いた値を接合部の抵抗とする。

図3 電気抵抗測定

3.超音波接合結線の接続信頼性
3.1.銅線結線:異種金属(めっき)による影響

 超音波接合のメリットとして、異種金属接合が容易であることが挙げられる。ここでは、端子表面のめっき処理条件の異なる端子(表2)を使用し、銅線結線時の異種金属接合の影響を確認した。

表2 接合部材

 表3(a)(b)に接合部材に印加する積算エネルギーをパラメーターとした場合の接合強度と接合部の電気抵抗、(c)(d)に部材にかかる圧力をパラメーターとした場合の接合強度と電気抵抗を示す。銀めっきおよびニッケル上銀めっきについては、同種金属の接合となるめっき無しの条件とほぼ同等の接合強度が得られている。ニッケルめっきは、積算エネルギー変化、圧力変化ともに同条件のほかのめっきに比べ接合強度が低く、めっきの表面硬度や再結晶温度の高さが影響した結果と考えられる。

表3 14sq銅ケーブル接合時の端子めっき種による性能変化

 電気抵抗については、どのめっき種についても条件による強い依存性は見られず、非常に良好な特性が得られており、電気接点の接合として有効な手法と言える。

 次に、異種金属接合での環境試験の結果を示す。前述した接合条件に対し、熱衝撃試験、高温試験、湿度試験を行い、それぞれの試験前後の接合強度の変化を表4に、接合部の電気抵抗の変化を表5に示す。表から分かるように低エネルギー、低圧力の初期強度の低い条件においても、接合強度、電気抵抗ともに大きな変化が見られず、超音波接合が耐環境性能においても優れた手法であることが確認できる。

表4 14sqケーブル接合時の端子めっき種による耐環境性能の変化 ①接合強度
表5 14 sqケーブル接合時の端子めっき種による耐環境性能の変化 ②電気抵抗

3.2.銅線結線:太線結線での接合性能

 ここでは、前述の評価結果に対し、ケーブルサイズが大きく芯線数が増加した場合(表6)の接合性能を確認した。今回接合を行った50sq接合部材(図4)の接合強度と接合部の電気抵抗を表7に示す。ケーブルサイズが大きくなると接合部が高くなる、あるいは接合部の面積が広くなるため、接合部に投入するエネルギーを大きくする必要がある。

表6 接合部材
図4 接合部材の外観
表7 50 sqケーブル接合時の接合性能

 前述した14sqケーブルでは積算エネルギー2,000Jで2,500N程度の接合強度が得られていたが、同レベルの接合強度を得るためには6,000Jを超えるエネルギーが必要になることが分かる。また、端子-芯線間の接合界面に十分なエネルギーを投入するためには、芯線同士がより密着した状態で接合されている必要がある。

 USCAR38-1によれば、式1の電線断面の圧縮率が銅線の場合で95~120%の間(typical 107%)で許容されている。1)今回の接合条件では、6,500Jと8,000Jの境界となる100%付近で接合強度が大きく変わることが確認できる(図5)。これに対し、接合部の電気抵抗は14sqケーブルの結果と同様に低く安定しており、太線結線においても超音波接合が有効であると言える。

図5 電線圧縮率と接合強度の関係

3.3.アルミニウム線結線

 アルミニウムはほかの金属と比べ酸化皮膜の成長が早く、大気中ではバイヤライトなどの化合物層もできるため、厚い皮膜となり抵抗が高くなる。2)またHolmの行った荷重-抵抗特性の評価3)によれば1,000Nの荷重に対して新生面の状態で0.004mΩ程度、そこから皮膜の状態により0.1mΩ程度まで抵抗が増加するとある。このようなアルミニウム線に対し表8に示す部材を用いて超音波接合を行った結果を表9に示す。

表8 接合部材
表9 35 sqアルミニウムケーブル接合時の接合性能

 アルミニウム線はつぶれやすいため接合条件は銅線に対し比較的低エネルギー、低圧力で、2,000Jを超えるエネルギー条件で電線強度の9割近い接合強度となり良好な結果が得られている。前述した圧縮率では、アルミニウム線の場合で60~116%の間(typical 88%)で許容されているのに対し1)図6に示す今回の接合結果においても110%付近から接合強度が安定傾向になることが確認できる(図7)。

図6 接合部の外観
図7 電線圧縮率と接合強度の関係

 電気抵抗については、銅線同様低く安定しており超音波によりアルミニウムの強固な皮膜がしっかり破壊されていることが確認できる。

4.まとめ

 今回、超音波接合を使用した銅線結線、アルミニウム線結線技術の開発を行い、接続部の低抵抗化、環境負荷に対する電気的な安定性が確認できた。今後はアルミニウムケーブルの結線を中心とした超音波接合プロセスの現象に対し、接合ツールや接合部材にかかる振動、接合部材に生じる温度といった多方向からの視点で開発を推進し、技術力向上とともに市場ニーズに応える製品開発に努めていく。

〈日本航空電子工業(株)コネクタ事業部要素技術開発部〉

[参考文献]
1)SAE/USCAR38-1,Performance Specification for Ultrasonically Welded Wire Terminations,4.3.5 Acceptance Criteria Equation 4.3.5 Table 4.3.5, p.14

2)アルミニウムハンドブック第7版(日本アルミニウム協会,2007), 6.化学的性質,p.58

3)R.HOLM,Electric Contacts Theory and Applications 4th Ed(SPRINGER, 2000),§8Fig.(8.01),p.41