2024.04.26 【育成のとびら】〈24〉計画・ゴールなきOJTの実態 「育成計画策定」は12.2% 「目指すべき仕事や役割を示している」は28.8%

 リクルートスーツを着た新入社員の姿を見かけると、新年度が始まったという実感が湧いてくる。まさに若葉のような初々しさだ。

 今はベテランとして活躍している人も、新人の頃にはさまざまな失敗を経験し、先輩や上司の指導によって成長した過去があるだろう。読者の中にはOJT(オンザジョブトレーニング=実地研修)トレーナーとして、後輩や部下の指導に当たった経験を持つ方もいるのではないだろうか。

 ここでいま一度、自身の新人の頃、あるいはOJT指導をした経験のある人は担当した経験を振り返って、育成や指導において新人が目指すべきゴールをどのように設定したか、思い出してみてほしい。

 当社ALL DIFFERENTのOJTトレーナー研修の受講者に同じ質問をすると、「ゴールを考えたことがなかった」「そういえば、ゴールってあったのかな……」という発言が多く返ってくる。

 ゴールを設定したと認識していた人でも、「一人前になる」「仕事のやり方を覚える」といった回答にとどまり、一人前の基準が不明瞭だったり、覚える仕事の範囲があいまいだったりすることが多い。

 ゴールの設定があいまいだと、OJT指導者、育成対象者、その上司、人事担当者それぞれのゴールの認識が食い違っていたとしても、ズレに気付くことができない。

 また、ゴール設定があいまいなままOJTを進めると、実際の取り組みがどの程度成功したのか、改善点は何だったのかなども分かりにくくなってしまう。

 結果として、OJT担当者と育成対象者の相性といった問題にのみ焦点が当たってしまいがちで、育成効果がどのくらいあったのか、次にどう生かすべきなのかという改善につながりにくい。

 では実際にOJTの現場では、どのような指導や取り組みが行われているのだろうか。

 労働政策研究・研修機構が2020年に実施した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査)によると、OJTの取り組み内容で最も多かったのが「とにかく実践させ、経験させる」で59.3%、次いで「仕事のやり方を実際に見せている」が57.5%と、業務の実践に力を入れている回答が上位になった。

 一方、「身に付けるべき知識や能力を示している」(39.7%)、「目指すべき仕事や役割を示している」(28.8%)、「個々の従業員の教育訓練の計画をつくる」(12.2%)といった、育成計画やゴールを設定してOJTに取り組んでいる企業は少なかった。

計画作成の基本

 前回(23回)、育成のゴールや育成計画の重要性について示したが、両者はセットで検討すべき課題だ。

 「部下・後輩にOJTを通じてどのような姿になってほしいか」というゴールを考えることによって、そのために必要な具体的な知識、スキル、経験がおのずと導き出されるはずだ。そして、目指すゴールに到達するために「どのような仕事を」「どのタイミングで」与えるかというアサイン(任命)の組み立てが育成計画へとつながっていくといえよう。

 このように組み立てられた育成計画は、OJT指導者だけが把握するのではなく、育成対象者、その上司、人材育成担当者、所属部門メンバーなどで共有されることが望ましい。

 組織全体で育成のゴールと計画を共有することで、「OJT担当者によってOJTのやり方や精度にバラつきがある」「OJT担当者任せになっており、各部署内でフォローやサポートがない」「OJTの全体像やゴールが分からず、場当たり的になっている」という多くの企業の悩みも解決されやすくなるのではないだろうか。(つづく)

 〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉

 【次回は5月第2週に掲載予定】