2024.07.05 【やさしい業界知識】トランス

電磁誘導により電圧を変換

電力伝送の高効率化に貢献

 トランスは、交流電力の電圧を電磁誘導作用を利用して変換する電子部品。同じ電力を送る場合、電圧値を高めると電流値を減らすことができるため、電線の抵抗などにより消費される電力損失を低減し、効率の良い電力伝送が行える。

 鉄心(コア)に1次コイルと2次コイルを巻きつけた構造。入力側の1次コイルに交流電流を流してコイル内部に磁界を発生させ、これを出力側の2次コイルに伝えて、再び電流に変換して出力する。

日本語では変圧器

 正式名称は、Transformer(トランスフォーマー)。日本語では変圧器(または変成器)と呼ぶ。

 トランスで電圧を変更することを変圧といい、電圧を上昇させることを昇圧(昇圧トランス)、逆に下げることを降圧(降圧トランス)という。

 従来は、商用電源の周波数である50ヘルツまたは60ヘルツで駆動する低周波トランスが一般的に使われていた。しかし、ACアダプターに代表されるように従来のアダプターは非常に重く、大型だった。一方、現在のアダプターはコンパクトで軽いのが特徴となっている。

 これは、半導体のスイッチング(電気のON/OFFの繰り返し)を利用して駆動周波数を100キロヘルツ以上に高周波化して出力する高周波トランスが用いられているため。

小型、軽量化

 従来の低周波トランスがコアにケイ素鋼板を用いていたのに対して、高周波トランスは高周波でのスイッチング損失が少ないフェライトコアを使用。アモルファス磁性材料が使用されている製品もある。これにより、トランスの小型、低背化とともに電源の高効率化、小型、低背、軽量化を実現している。

 高周波トランスは、スイッチング電源技術を搭載するテレビ、エアコンなどの民生用電子機器から、パソコン、複合機といった情報機器、自動車、製造装置、工作機械、電力インフラ、さらにはアダプター、チャージャーまで多くの電子機器で使用されている。

 近年は、太陽光発電パワーコンディショナーや風力発電システム、蓄電システムなどの再生可能エネルギー関連機器に適したトランスや、EV/PHVなどの電動車の電源用としてエネルギー効率と高周波特性に優れた低損失トランスなどの開発に力が注がれている。

 最近の自動車や産業機器におけるスイッチング素子は、高速大容量ニーズの強まりにより、次世代パワー半導体材料のSiC(炭化ケイ素)の採用が進みつつある。各種機器の高機能化により、システムの高電圧化も進んでいる。このため、SiCのゲートを駆動する回路の高耐電圧要求も高まっており、独自の材料技術や巻線技術などを組み合わせることで、小型高耐電圧のSiCゲート駆動用電源トランスなどが開発されている。

 トランスの生産は労働集約的な要素も強いため、海外工場への生産移管が進み、現在は中国やASEANなどのアジア地域がグローバル市場に製品を供給する一大生産基地となっている。

(毎週金曜日掲載)