2024.07.12 【やさしい業界知識】水晶デバイス 

小型差動出力水晶発振器

水晶振動を利用する部品の総称

多分野で使われる「産業の塩」

 水晶振動子は、水晶の圧電効果を利用した受動部品。水晶片に電圧を加え、振動する現象を利用して安定した高い精度の周波数を発振する。振動子を発振させる回路を持った水晶発振器、周波数を選択する水晶フィルターを含めて、水晶の振動を利用した電子部品を総称して水晶デバイスという。

 水晶デバイスは、時計や通信機器分野を主市場としていたが、広い周波数を高精度、高安定でカバーできるため、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどの情報通信端末、携帯電話基地局などの通信インフラから薄型テレビ、デジタルカメラなどのデジタル家電、自動車に至るまで幅広い分野で使用されている。水晶デバイスは、「産業の塩」と呼ばれることもある。

成長軌道に回帰

 水晶デバイスの需要はここ数年、自動車とスマホの生産台数の増加と多機能化による搭載点数増加によって拡大してきた。2018年後半から20年前半にかけては、過剰な設備投資による在庫増、米中貿易摩擦激化、さらに新型コロナウイルス感染症拡大による世界経済停滞などもあり、水晶デバイス市場も低調に推移したが、20年後半以降は、デジタルシフトの加速や世界経済の回復により、成長軌道に回帰している。

 汎用(はんよう)振動子については、既に海外生産が定着化。国内では、スマホなどに搭載される超小型品をはじめ、高信頼性が求められる自動車用振動子の生産が伸びている。今後も通信容量の増大、高速化に向けた設備投資を背景に、高安定、高精度の付加価値の高い水晶デバイスの生産規模が拡大する見通し。

 特に自動車用途ではADASの搭載が高級車から小型車まで広がっており、車載カメラやミリ波レーダーなど、安全運転の支援システムが水晶デバイスの需要を押し上げていく見通し。さらに、生成AI(人工知能)の普及に伴うAIサーバー/データセンター市場の拡大も、高付加価値の水晶デバイスの需要を押し上げていく。

日系は一貫生産

 水晶デバイスは日系メーカーのグローバルシェアが依然として高いが、近年は台湾、中国といったアジア系電子部品メーカーが競争力を高めている。それに対して、日本の水晶デバイスメーカーは、高安定の人工水晶から高精度加工まで一貫生産する技術的な優位性で対応。1210サイズなどの超小型技術を用いることで、スマホやIoT端末などで求められる小型、薄型、軽量化などのニーズに対応している。

高難度な技術

 近年は、高度化する技術要求に対し、キーマテリアルである人工水晶からプロセス技術まで、新たなシステムの導入が活発化している。人工水晶は、特性のバラつきがない高品質な水晶ブランクを育成するための技術開発が進展。ウエハーサイズは大きくして生産性を向上するとともに、超小型化と高周波対応のためにこれまで機械加工だった前工程へのフォトリソグラフィー技術の導入が進んでいる。特に日本の水晶デバイスメーカーは、フォトリソ加工技術で先行している。

 組み立ても自動化、ロボット化で小型、高精度化への新たな技術が導入されるなど、水晶デバイスの生産形態が大きく変化し、高難度な技術ニーズへの対応が可能となっている。

(毎週金曜日掲載)