2024.08.28 5年かかる計算がわずか10時間 量子コンピューター、新技術で計算規模拡大 富士通と大阪大が開発

ハバードモデル計算の一部における高速化の効果

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 富士通大阪大学は28日、量子コンピューターの早期実用化に向けて共同開発を進めている量子計算技術「STARアーキテクチャ」について、量子ビットの効率的な操作手順を自動生成する技術などを開発したと発表した。数万量子ビットの量子コンピューターでも、現行コンピューターで約5年かかる物質のエネルギー推定計算を約10時間で実行可能になることを確認。量子コンピューターの計算規模を飛躍的に拡大させると期待され、早ければ2030年ごろの実現を目指す。

 富士通研究所フェロー兼量子研究所長の佐藤信太郎氏は「量子コンピューターが現行コンピューターより速く問題を解決できるという量子優位性の実現方法を初めて示した」と説明。将来的には電力インフラの送電ロス削減のほか、材料開発や創薬などさまざまな分野の技術革新につながるという。

 量子ゲート式の量子コンピューターは超高速計算が可能になる一方で、計算中にエラーが発生しやすいことが課題となっている。正確な計算には、100万量子ビット規模の大量の量子ビットを使ってエラーを防止する必要があるが、実現には相当な年月を要するとされてきた。

 富士通と大阪大は21年10月、同大量子情報・量子生命研究センター内に「富士通量子コンピューティング共同研究部門」を開設。エラー訂正に基づく量子計算技術の研究開発に取り組み、23年3月には量子コンピューターの基礎的な計算の仕組みを刷新する高効率位相回転ゲート式量子計算「STARアーキテクチャ」を開発した。

 STARアーキテクチャは、エラーを訂正しない代わりに計算可能な規模に限界があることと、量子ビットの操作方法である物理ゲートの手順が確立されていないことの2点が課題となっていた。

 これらの課題に対し、富士通と大阪大は、STARアーキテクチャのエラー耐性を強化した位相角の準備方法を再構築し、1000分の1にエラーを抑制する新しい位相回転の技術を開発。また、量子ビットの具体的な操作手順を自動生成するシステムである量子回路ジェネレーターの構築に成功した。材料物性計算の理論モデルの1つである「ハバードモデル」の計算に必要な量子ビット数と計算時間の分析を行ったところ、6万個の量子ビットがあれば、現行コンピューターで約5年かかる計算を10時間で計算できることが分かった。

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