2020.06.18 Let’s スタートアップ! ロックガレッジ「人の命を守る技術」をドローンで実現
成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。
第2回は、産業用ドローンソリューションの開発を手掛けるロックガレッジ。同社は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに採用されるなど、その技術力は高い評価を受けている。会社設立の経緯や今後の展望などを大畑令子・副社長に聞いた。
「機体」「システム」の両面にたけた存在
家電量販店にたくさんの機体が並ぶなど、ここ数年で身近なものとなったドローン。このドローンを防災や物資輸送など産業利用しようという動きが活発化している。
しかし、ドローンを産業利用するには、機体だけでなく、機体を制御するシステムの開発も必要になる。
こうした中、ドローンの機体、制御システムの両面で高い技術を持ち、産業用ドローンソリューションを開発しているのが、ロックガレッジだ。
同社の岩倉大輔・代表取締役が持つ知識と技術力の高さは、ドローン関係者の間では広く知られており、名の知れた大企業や官公庁などからの依頼や相談が後を絶たない。
例えば、現在、NECでは、経済産業省などが推進する「空の移動革命」の実現を目指した「空飛ぶクルマ」開発プロジェクトに力を入れている。ロックガレッジは、その要となる制御システムの大部分を開発する。
諦められない夢のリスタート
ロックガレッジは、ドローン単体を提供するのではなく、ドローンを使ったソリューションを開発し提供することで外部から高い評価を受けている。この方針を決めた背景には、岩倉代表取締役の苦い経験があった。
岩倉は「ドローン」という言葉が一般に知られる前から、千葉大学大学院の研究室で、ドローン制御の研究をしていました。当時、私は大学の職員でした。岩倉とは、その頃からの付き合いになります。
2013年、岩倉たちの研究成果を見た研究指導の先生が「会社にしよう」と提案したことがきっかけで、自律制御システム研究所(自律研)が立ち上がります。そして、私は第1号社員として会社に参画しました。
自律研は、今でこそ株式上場を果たしていますが、当時は岩倉の研究開発を土台に立ち上がった10人ほどの小さな会社でした。
ただ、みな希望にあふれ、当時は、私も「未来に大きな功績を残すものを今から作れるかもしれない」という高揚感に満ちていました。
しかし、ドローン開発企業の先駆けとして成長していく中で、会社の方針が汎用型の国産ドローンを作ることに傾倒していきます。
もともと岩倉は、ドローンで「困りごとを解決」して、「現場の仕事観を変えていくものを提供したい」と考えていました。そのため、自律研では、その目的が果たせないと考えるようになったのです。
そこで、一念発起して、自律研で培ってきた技術なども全て捨て、ロックガレッジをゼロから立ち上げたのです。
「客も仲間もゼロ」の窮地を救った国のプロジェクト
2018年4月、岩倉代表取締役と大畑副社長は、ロックガレッジを設立。ただ、その船出は、想像以上に厳しいものだった。
全てをリセットしたところから起業していますから、お客さまも仲間も“ゼロ”でした。そんな状況では、どうやって最初のお客さまを見つければいいのか分からない。精神的にとても辛い時期でした。
それでも、私たちが得意とする開発で皆さんに注目してもらう機会を作らないといけないと考えました。そこで、NEDOの技術開発プロジェクトに応募しました。
そして、幸運なことに設立間もない小さな会社ながらも採用してもらうことができたのです(※)。
※NEDOプロジェクトの事業名:次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野/AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム 実施期間:2018~2019年度
これが大きな転機になりました。NEDO広報活動を通して、大企業をはじめ、さまざまな方面から問い合わせが来るようになったのです。
NEDOには、もともと研究者や開発者だった方も多くいました。ありがたいことに、そうした人たちが、特許戦略のアドバイスをくれるなど、「ロックガレッジさん頑張れ頑張れ」といったスタンスで、2年間ずっと応援してくれたのです。だから、今でもNEDOの担当者には足を向けて寝られません(笑)。
「人の命を守ること」にドローンの技術を使いたい
ロックガレッジでは、NEDOプロジェクトを通して開発した遭難者捜索ツール「Harris Hawk(ハリスホーク)」が、今後の主力商品になっていくという。
「Harris Hawk」は、ドローンとAI(人工知能)を組み合わせたシステム。山岳遭難者などを捜索する際に、専用アプリで捜索エリアを指定するとドローンが飛び立ち、自動的にデータを収集する。
システムは、高度なドローンの操作方法を習得する必要がない上、探すべき場所もAIが自動的に教えてくれるので、捜索者の負担を大幅に減らすことができるという。
山岳遭難者以外にも、海難救助など幅広い用途に応用が可能だ。現在、商用化に向けた最終調整の段階だが、官公庁を中心に多くの引き合いが、既に来ているという。
「ドローンを使った一番価値のある仕事は何か?」と考えた時、「人の命を守る」ことだと、私たちは思いました。
2011年に東日本大震災が起こった時、岩倉は、やっと空を飛べるくらいの状態だったドローンの試作機を使い、被災地の様子を空撮しました。
その空撮映像は、低空域からの貴重な資料ということで、国会図書館に収蔵されています。
被災地を撮影した際、岩倉は「いつか人の命を救うことに自分の技術を使いたい」と強く感じたそうです。「Harris Hawk」は、その思いを実現するものなのです。
防災テックで5年後に売上げ10億、海外進出も
ロックガレッジは今後、どのような展開を考えているのだろうか。
ドローンは、非常に期待されている技術ですが、実際に産業利用しようとすると難しいことがたくさんあります。これを私たちのシステム開発力で解決できるのではないかと考えています。
まず、メインターゲットに考えているのは「防災分野」です。現在、私たちは官民協議会「JIPAD2019」に参加しており、日本の防災をIT技術で解決する防災テクノロジー(防災テック)を海外に打ち出していく取り組みに力を入れています。
具体的には、建造物の経年経過をドローンでモニタリングし、データとして蓄積して、自治体などが予算の中で災害対策の優先順位を付ける際に活用するといったソリューションを想定しています。
岩倉は、ドローンのハード、ソフトの両面で日本一の技術を持っていると私は信じています。これを当社の強みにして、自社開発したドローンソリューションを様々な分野に提供し、2年後には1億円、5年後には10億円の売上げを達成したいと考えています。
今求めているのは「仲間」
最後に、同社が今必要としているものを聞いた。
たくさんありますが、一つ挙げるとすれば「仲間」です。
課題を抱えているお客さまも、社内で成長を手伝ってくれる社員も、どちらも仲間と考えています。
私たちの「志」に共感してもらえて、同じ目標を持って支えてくれる仲間を増やすことが、新しいビジネス展開や私たちが目指す世界観の実現につながっていくと信じています。
そこで、今は、新しい「仲間」を増やすために、自治体の皆さんとつないでもらえるアクセラレータープログラムに参加しています。こうした場を活用し、新しい人とのつながりをどんどん作ろうと頑張っているところです。
- 社名
- ロックガレッジ
- URL
- https://www.rockgarage.tech
- 代表者
- 岩倉大輔・代表取締役
- 本社所在地
- 茨城県古河市古河544番地84
- 設立
- 2018年4月
- 従業員数
- 8名
- 事業内容
- ドローンソリューション開発など