2025.10.21 グラフェンとイオンゲルで計算負荷100分の1に NIMS、東京理科大学、神戸大学 エッジAI向けの新デバイス開発
本研究で開発したイオン型物理リザバー(左)と、典型的ベンチマーク試験で達成した計算負荷の低減
NIMS(物質・材料研究機構)は、東京理科大学、神戸大学との共同研究により、イオンの振る舞いを利用して情報処理を行う新しいAI(人工知能)デバイスを開発したと明らかにした。従来の深層学習(ディープラーニング)に比べ、計算負荷を約100分の1に減らすことに成功。端末機器(エッジデバイス)に直接搭載した「エッジAI」の情報処理性能への貢献が期待される。
深層学習や生成AIに代表される機械学習の消費電力の増大は社会問題化しており、解決に向けて低消費電力で高い計算性能を備えたAIデバイスの需要が高まっている。高効率な脳型情報処理のリザバーコンピューティングを行うAIデバイス「物理リザバー」は、計算負荷(必要な積和演算の数)が小さく省電力であるため注目されているが、ソフトウエア処理に比べて低い計算性能が課題だった。
今回、NIMS、東京理科大、神戸大の研究チームは、イオンを利用する物理リザバー素子を開発し、深層学習並みの高い計算性能と桁違いに低い計算負荷を実現した。高い電子移動度や両極性を持つグラフェンと、イオンゲルを組み合わせることで、速度が異なるさまざまな反応(イオンと電子がさまざまな形で動く)が複雑に関係しながら進むため、非常に広い範囲で時定数(変化速度)が異なる入力信号に対応が可能となる。その計算性能は、従来型物理リザバーの中でも最も高い計算性能を示し、ソフトウエアで実行した深層学習と同等の計算性能ながら、計算負荷を約100分の1まで低減することに成功した。
今後は、この研究で得られた素子を搭載して、高性能・高効率に情報処理する超低消費電力エッジAIデバイスの実現を目指していく。
この研究はJSTさきがけ「新原理デバイス創成のためのナノマテリアル(岩佐義宏研究総括)」における研究課題「超高速動作イオントロニクスの創成」(JPMJPR23H4)の一環として行われた。研究成果は、10月14日にACS Nano誌に掲載された。








