2020.07.03 【5Gがくる】<3>高い周波数は「密による速度の低下」を解消
多くの人が行き来する象徴的な場所ともいえる東京・渋谷駅前のスクランブル交差点-。緊急事態宣言下でほとんど人がいなくなったが、いま再び人が戻り始めている。そのスクランブル交差点といえば、ライブカメラから人が〝密〟に行き来する映像で、誰もが一度は見たことがあるだろう。
現在、5G通信を利用できるスポットが、このように人出で混雑する密なエリアになっている。人が密ならばスマホも密。スマホが密ならば電波も密だ。電波の違いは周波数の違いであるから、一般的には密なエリアでは限りある資源の周波数が枯渇し、通信速度が著しく低下するはずである。しかし、5Gでは…。
スマホは、携帯電話に割り当てられた周波数の電波を利用している。今現在、皆が使っている4Gの携帯電話サービスに主として割り当てられているのが「極超短波」と呼ばれる周波数帯だ。300メガ-3ギガヘルツ帯の比較的低い周波数の電波であり、広域通信に適していることから、2.5ギガヘルツ帯では地域公共サービスなどを目的にした地域広帯域移動無線アクセス(地域BWA)にも利用されている。
特に「プラチナバンド」と呼ばれる800メガヘルツ帯の電波は広がりやすい性質のため、見通しの悪い建物などの陰に回り込み、建物の内に入り込むことができる。そのため、全国津々浦々に設置されている「マクロセル」と呼ばれる広いエリアをカバーする大きな基地局(アンテナ)とスマホをつなぐ通信に最適だ。一方の5Gでは、より高い周波数の「マイクロ波」と「ミリ波」を利用する。
より直線性強く
3ギガヘルツ以上の周波数帯は、極超短波より直進性が強く、山や建物などの障害物のない特定の方向への電波伝搬に適している。衛星通信や中継回線、見通しの良い基地局との固定無線アクセス(FWA)などでもこの高い周波数帯を使っている。
アンテナが小さく
では、5Gで高い周波数の電波を利用する理由は何だろうか?
その答えの一つが、「周波数が高いほどアンテナ送信電力の伝搬損失が大きい」というフリスの公式になる。言い換えると「周波数が高いほど受信アンテナが小さくなる」ということ。もう一つは、シャノンの定理「通信路容量は帯域幅に比例する」。高い周波数では帯域幅を広くできるため「周波数が高いほど通信容量が大きくなる」といえる。
そして、両者を合わせると「高い周波数を利用すれば、小さなアンテナで通信速度を上げられる」ということになる。これがローカル5Gを含む5Gでマイクロ波とミリ波を利用する上で、極めて重要なポイントだ。
いま、5Gのスポットにはマイクロ波を利用した「スモールセル」と呼ばれる密なエリアをカバーする小さな指向性アンテナが幾つも設置されている。従って混雑してもスマホの通信速度が低下しないようになっている。
次回は、ミリ波の「超高速」について解説する。
<筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師 竹井俊文氏>