2020.09.28 【汎用インバータ特集】 産業用モーターと組み合わせ省エネ同期モーターと組み合わせ提案進む

需要拡大が期待される汎用インバータ

 汎用インバータは、産業用モーター(三相誘導電動機)と組み合わせて省エネを実現する。産業用モーターはビル、工場などの空調機器、輸送機器、工作機械、製造装置、建機、昇降機など様々な産業機器の動力源として使われている。資源エネルギー庁によると、同モーターの日本国内における普及台数は約1億台で、全消費電力量の約55%を占める。

 産業用モーターは、国内需要だけでも年間約1000万台規模に達する。資源エネルギー庁の資料によると、産業用モーターの用途別比率はポンプ38%、圧縮機23%、送風機13%、動力伝達装置9%、金属工作機械7%、農業用機械器具4%、運搬機械・産業用ロボット3%などとなっている。

 産業用モーターは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する際に内部で一部が熱エネルギーとして消費される。この損失を低減して高効率化することは、国としても重要なエネルギー政策であり、世界各国が国際電気標準会議(IEC)の規準を採用するなどで高効率化規制を進める。日本は「トップランナー方式」を15年に導入、基準を定めた。

 産業用モーターのさらなる省エネを実現するため、汎用インバータが注目されている。

 モーターは一般的に起動時に大きな電力を消費する。インバータはON/OFF制御ではなく、モーターに供給する交流電源周波数(商用電源、50/60ヘルツ)を可変し、連続運転しながら負荷に応じたモーターの回転数を制御する。

 産業用モーターの回転数は、入力電源(交流)の周波数とモーターの極数と相関関係にある。極数は変えられないので、入力周波数をコンバータ回路やスイッチング回路で可変することで回転数を変える。

 交流の商用電源をいったん直流に変換(コンバータ回路)した後、再度交流に変換(インバータ回路)し、周波数と電圧を自在に変える。

 交流から直流の出力を得るためにはダイオードで整流し、コンデンサで平滑化する。次にコンデンサに蓄えた直流をON/OFFの繰り返しによって擬似的なACを作り出し(変調回路)、コンデンサによる平滑回路で滑らかなACに変換する。直流をON/OFFの繰り返し動作は「スイッチング」と呼ばれる。

 スイッチング素子は現在、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を主回路に用いた装置が一般的だが、次世代パワー半導体デバイスと呼ばれるSiCやGaNを採用した製品も登場してきた。これらを用いると高速スイッチングが可能になり、省エネ効果をさらに高める。

 メーカーの試算では、インバータを用いることで産業用モーターの消費電力を4分に1に抑えられる。

 電機業界では、産業用途で用いられるインバータのうち、入力電圧が交流600V以下、駆動する交流モーターが7kW以下のインバータを「汎用インバータ」と呼んでいる(経産省機械統計分類に準拠)。最近は用途の拡大から300kW程度まで含める傾向がある。

 汎用インバータは、ビルや工場などの空調に用いられるファン・ポンプ用途が多いが、輸送機器、半導体製造装置や工作機械など様々な機械に組み込まれる需要も多い。

 大きな省エネ効果が期待されるインバータだが、業界の期待ほどに普及が進んでいない現状がある。スイッチング素子にサイリスタを利用した初期のインバータ装置が登場したのは1965年頃。半世紀が経過したが、JEMA(日本電機工業会)の「モータ・インバータに関するユーザー調査」(18年度)によると、インバータ装着率は全体で27.3%、ファン・ポンプと圧縮機で19.6%にとどまっている。

 汎用インバータの普及を促進するために、業界が注目しているのが同期モーター。

 産業用途で用いられるモーターは、誘導電動機のほかに同期モーター(PMモーター=永久磁石モーター)、ステッピングモーター、サーボモーター、直流モーターなどがある。

 同期モーターは、回転子(ローター)に永久磁石を使用したモーターのことであり、特徴として、高効率(回転子に永久磁石を使用することによって、2次銅損がなくなるため)や小型化などが挙げられる。

 最近になり、高性能ネオジム磁石を使ったIPMモーターが開発され、HV、EV用にはIPMモーターが使用されることが多くなっている。

 誘導電動機は、商用電源の周波数(50/60ヘルツ)を変えずにそのまま使ったり、商用電源の周波数をインバータで可変して回転数を変えるが、同期モーターは構造上、商用電源をそのまま使うことができず、インバータが不可欠になる。

 このため、同期モーターと汎用インバータの組み合わせによる提案が進み始めている。