2020.11.02 【NHK技研90周年特集】NHK技研・三谷公二所長に聞く90周年を迎えた技研の現状と今後
基礎研究をさらに強化
扱う情報空間広げる
NHK放送技術研究所(技研)は、今年で開所90周年を迎えた。これまで、世界に先駆けて実現した衛星放送やハイビジョン、8Kスーパーハイビジョンなど、様々な放送技術の進歩発展に貢献してきた。三谷公二所長に90周年を迎えた技研の現状と今後について聞いた。
―今年は技研3か年計画(18-20年度)の節目の年ですね。
三谷所長 臨場感や実物感の高いコンテンツを届けるための技術「リアリティーイメージング」、インターネットを活用してユーザー体験を向上させる技術「コネクテッドメディア」、AIを活用して効率的な番組制作を支援する技術「スマートプロダクション」の三つの研究テーマを大きな柱として、新しい放送技術とより豊かな放送サービスの実現を目指した研究開発に取り組んできた。
究極の2次元テレビとして研究開発を進めてきたスーパーハイビジョンの次につながる大きな柱として、3次元映像・音響技術や360度映像、現実空間とバーチャル空間の融合技術を使った新しい放送メディアの研究を進めている。スーパーハイビジョンだけでなく、3次元映像・音声やAR/VRなどの新しいコンテンツを、様々なデバイスでお楽しみいただける将来を目指している。
―新たな研究計画についてはいかがですか。
3か年計画さらに発展
三谷所長 次の研究計画は現在、作成中で、議論を進めている。基本的には現在の3か年計画をさらに発展させていく。その中でも放送メディア技術につながる人間科学(脳・五感)や材料・デバイス技術、光制御技術などの基礎研究をさらに強化していきたいと考えている。2次元テレビから、AR/VR、3次元テレビへと取り扱う情報空間を広げていく。そのような高度な空間情報デザインの時代にも、最終的には情報を受け取るのは人。コンテンツをどうやって効率良く効果的に伝えていくのかが重要だ。人の感覚や感情まで踏み込んだ研究も必要になってくると考える。
―新しい放送技術について。
三谷所長 新しい時代においても、公共放送メディアにふさわしい、新たなサービスやメディアの創造に向けた様々な取り組みを積極的に進めていく。国内外の大学やほかの研究機関などとも連携しながら、時代を先導する放送メディアの研究開発を進めていきたい。5Gやインターネットを活用して、インタラクティブやパーソナライズドな機能を加えることにより、よりリアル感や満足感が得られるメディアを実現できると考える。
将来の放送メディアを見据えて、インターネット上で爆発的に増え続ける大量の情報を処理したり、先ほどお話しした空間情報デザインでは膨大な光線情報を高速に処理できる技術が欠かせない。AIを含むコンピュータサイエンスなどの最先端技術をコンテンツ制作やサービスに取り込んで新しい価値を創造していく。例えば、映像制作において、実写とバーチャルな空間との高精度な3次元合成技術は、スタジオのセットや設備、番組制作に係るワークフローを大きく変える可能性があり、働き方改革や資源の有効利用にもつながると考えている。
―今後の放送の在り方はどうなりますか。
オンライン制作など
三谷所長 新型コロナウイルスによって、社会の在り方が大きく変わり、メディア環境にも大きな影響を与えている。
ウィズコロナの時代に、3密を作らない番組制作も放送事業が直面している課題の一つだ。IPインターフェイスを使ったリモート制作や、クラウドを活用したオンライン制作など、新しいワークフローに急速にシフトしていくと思う。
また、バーチャル空間を活用したリモート会議や授業、オンラインイベントなども身近になった。今後、バーチャル空間での視聴体験の高品質化も求められるのではないかと思う。
放送メディアにおいても、放送と通信の融合した新しいサービスへのニーズが高まると考える。見たい番組を効率的に探すことができたり、信頼できる情報を必要な時にタイムリーに提供できるパーソナライズド・サービスや、放送にAR/VR技術を活用した新しい視聴体験ができるサービスなどが考えられる。これらのサービスを通して、視聴者の体験価値向上を目指す。
―今年は技研の90周年ということですが。
三谷所長 技研90周年ということで一年を通して様々なイベントを予定していたが、計画変更を余儀なくされた。コロナ禍でも、様々な技術やサービスを創造してきた90年の歴史や未来につながる技研の取り組みをできるだけ発信したい。
現在、渋谷スクランブルスクエアのNHKプラスクロスSHIBUYAで「放送のミライ展」を11月23日まで開催している。近未来の最先端テクノロジーなどが体感できる。また、10月中旬からインターネット上でも、NHK技研開所90周年記念特設サイトを公開し、技研の歴史や最新技術を動画で紹介している。この機会に、ぜひ、ご覧いただきたい。