2021.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】市場動向 働き方改革

NECネッツエスアイの日本橋オフィスで遠隔操作ロボットを活用したハイブリッドワークに取り組む従業員

セミナー会場とワークショップを兼ね備えた協創空間のイメージ(提供=日立ソリューションズ)セミナー会場とワークショップを兼ね備えた協創空間のイメージ(提供=日立ソリューションズ)

常盤橋タワーで活躍する自律走行型の配送ロボット常盤橋タワーで活躍する自律走行型の配送ロボット

東京駅前にそびえる地上38階の常盤橋タワー東京駅前にそびえる地上38階の常盤橋タワー

「ハイブリッド型」勤務に注目、リアルとデジタル融合

 新型コロナウイルスの感染拡大を機にニューノーマル(新しい日常)時代の働き方を模索する動きが幅広い業種で広がる中、デジタル技術により、柔軟で多様な働き方を支援する取り組みが活発化している。

 オフィス勤務とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッド型」勤務の可能性にも熱い視線が注がれており、変革期を支えるIT各社の存在感は一段と高まりそうだ。

 「新しいハイブリッドな働き方が世界同時進行で進んでいる」。

 NECネッツエスアイの菊池惣執行役員は、東京都中央区の日本橋イノベーションベースで開いた記者説明会で、「GAFA」と呼ぶ米IT大手4社が二つの働き方を適宜使い分けるスタイルを取り入れている動きを概観。リアルなオフィスを中心に、デジタル技術を組み合わせた新しい働き方の可能性を追求することに意欲を示した。

 日本橋のオフィスに顧客企業と共創するラボを整備。組織や国の壁を越えて共創活動を行うための環境づくりも推進する。培った知見は、ハイブリッドワークを支援するソリューションの開発に生かしていく。関連事業で2024年度までに年100億円の売上高を目指す。

 例えば、オフィスの平面図と周囲360度を見渡せる画像を組み合わせ、オフィスで働く人とリモートで働く人があたかも同じ空間にいるような環境を構築できるアプリケーションを活用。「チームズ」「スラック」といった米国発のコミュニケーションツールなども連携させる。

 日立ソリューションズもニューノーマル時代の働き方への支援に余念がない。同社は米ソフトウエア企業6Connex(シックスコネックス)と販売代理店契約を結び、臨場感ある会場を仮想空間上に再現できるクラウドサービスの販売を今夏から開始。非対面が常態化しイベントのオンライン化が進む動きを踏まえて投入した。

 具体的には、商品説明会や顧客との共創活動などで用いる会場を短期間に仮想空間上に作れる多彩なテンプレート(ひな型)を用意。主催する商品担当者と参加者をチャット機能で結び付けるほか、人工知能(AI)が似たような興味を持つ人同士をマッチングし可視化する機能も搭載した。

 加えて、仮想空間上の会場に設けた複数のブースや部屋を回ってためたポイントに応じて特典が得られる仕組みで参加者を回遊させるという。

 さらに日立ソリューションズは、英IT企業Condeco(コンデコ)とも契約を締結。8月からオフィススペースの運用を最適に管理できるクラウドサービスの国内販売を始めた。コロナ禍でテレワークや席を固定しないフリーアドレス制を導入する企業が急増している動きを受けて、オフィス管理を後押しする。

 本社オフィスをニューノーマルな働き方の「実験場」として刷新し運用を始めたのが日立ビルシステムだ。約2250人の社員が就業している、東京都内に構える二つの本社のオフィスをリニューアル。共にフリーアドレス制を採用し、執務エリアを集約した。

 中でも千代田区の本社には、社員同士のコミュニケーションを促して仕事の創造性が高まるよう、ソファやカフェカウンターなどを配置した「オープンエリア」を新設。専用のスマホアプリでオフィス生活に必要な施設予約管理や情報入手などが一元的に行えるソリューション「BuilPass(ビルパス)」も導入した。社員各自がスマホ上でオフィス情報を閲覧しながらスペースを選び、効率的に業務を進められる。

都心の高層ビルも実験場に

 多くの通勤客らが行き交う首都の玄関口、東京駅前にニューノーマル時代の働き方を実践するオフィスビルが誕生した。三菱地所が6月に完工した「常盤橋タワー」(東京都千代田区)だ。駅周辺で最も高い約212メートルを誇るビルで、戸田建設が施工。クラレや古河電気工業、東京海上ホールディングスなど約15社の入居が内定し、9割の高稼働率で完工を迎えた。

 ビルには、入居企業の就業者をサポートする多彩な先進技術を採用。一つが、快適に働けるよう後押しする専用アプリだ。コロナ禍で人やモノとの接触を避けて感染リスクを低減する対応が求められる中、2階のオフィスロビーに「非接触」の入館システムを配備。アプリをダウンロードしたスマホをゲートにかざすだけで解錠できるようにした。

 さらに、エレベーターの行き先階を予報するシステムとも連動。人が通過すると、ゲートの画面に最適な乗車号機が表示される。通勤時間帯の混雑緩和も狙った仕掛けだ。

 警備や清掃などの施設管理業務を手助けするロボットも存在感を放つ。NECネッツエスアイが提供する自律走行型配送ロボット「YUNJI DELI(ユンジ デリ)」がその一つだ。

 コロナ禍に伴うリモートワークの広がりを受けてオフィスの移転や縮小を進める企業が相次ぎ、都心の空室率は上昇傾向にある。ただ、三菱地所の茅野静仁執行役員は「(コロナの感染拡大を機に)働き方を選べる時代が到来したが、各社はリアルの重要性にも気づき始めている」と指摘する。

 富士キメラ総研がまとめた、ニューノーマル時代のICT(情報通信技術)変革ソリューション国内市場の調査結果によると、20年度の市場はコロナ禍の影響を受けて1046億円が上乗せされ、8787億円に到達。25年度には追加の上乗せ分を含めて1兆4593億円の規模に達する見通しだ。

 同社では仮想オフィスやウェブ会議などのほか、顧客との接点づくりを支援する手段も大きく伸びると見ている。同市場を巡る各社の挑戦は一段と熱を帯びそうだ。