2021.10.26 酪農地帯でバイオマス発電タカラレーベンなど、廃棄物活用し地域課題に寄与

バイオマス発電所は、有数の酪農地帯に建設された

家畜のふん尿が発電の原料になる家畜のふん尿が発電の原料になる

22年度中の売電開始目指す

 不動産総合デベロッパーのタカラレーベンなどが、静岡県富士宮市の酪農地帯で地域特有の課題解決などを目指し、域内で発生した廃棄物を循環させてバイオマス発電する事業に乗りだした。同社は既に太陽光発電事業を拡大させているがバイオマスは初めて。国内でも珍しい取り組みという。今月から発電所の試験稼働を始め、2022年度中の売電開始を目指す。

 同社は13年にメガソーラー発電事業に参入し、関東地域を中心に開発。全国62カ所、出力合計約206MWに達する規模(3月末時点)にまでなった。次に着目した再生可能エネルギーがバイオマスだ。

 タカラレーベンと、畜産バイオガスプラントの設計などを手掛ける土谷特殊農機具製作所(北海道帯広市)が共同出資し、事業会社「富士山朝霧Biomass」(富士宮市)を設立。「富士山朝霧バイオマス発電所」建設に向けて7月から事務所建設などに着工し、設備の増設工事などを進めていた。環境省の実証事業などで活用した設備を再利用するため、「既存の設備の大半はそのまま使う」(タカラレーベン経営企画部)。今月までに完成させ、試験稼働を開始。22年1月ごろの本格稼働を予定する。

1日に現地で開所式が行われ、試験稼働させるため設備に牛ふんが投入された

 建設地は国内有数の酪農地帯で、地元の酪農業の専門農協、富士開拓農業協同組合(富士宮市)も共同事業者に加わったのが今回の特徴の一つ。静岡県内の生乳生産量の43%を占めているという。

 発電所では、家畜のふん尿を集めて発酵処理することでバイオガスを生成。ガスを回収し、燃料にして発電する。残りかすは液体肥料になる。従来の直接燃焼の発電方式に比べ、二酸化炭素(CO₂)を年間1150㌧程度削減できる見込みとしている。

 液体肥料は生物由来の肥料として農作物の栽培などに利用可能。「地域で発生した廃棄物を循環させることでマイクログリッド(小規模エネルギーネットワーク)を実現する」(同社)。

 牛ふんの受け入れや液肥の販売などは富士開拓農協が担う。会員から1日当たり約350頭分の牛ふん約17㌧を集めて燃料にする。この燃料で、年間約69万4000kWhを発電できる想定。牛ふんは主に農協組合員の酪農家から集めるが、地域内の組合員以外にも広げていく考えだ。

 液体肥料は地域で販売。発電した電力は再エネ固定価格買い取り制度(FIT)で売電し、地域新電力を通じて地域に供給される。

集約的な酪農

 今回の事業は、地域が抱える課題解決にも一役買う取り組みだという。この地域は全国でも有数の酪農地帯で、40戸を超える酪農家が乳牛約5000頭を飼育し、「地域産業として集約的な酪農業が営まれている」(同社)。ただ、牧草地の広さに対して飼育数が過密な面があり、近年は乳牛のふん尿による地下水汚染が懸念されている。

 バイオマス発電では乳牛のふん尿を燃料とする一方で、畜産バイオマス由来の電力を地域新電力を介して各家庭に供給する。再エネを創出した効果で地下水汚染を低減できるだけでなく、CO2削減なども期待できる。

 地下水汚染問題は本州などの酪農地帯に共通する課題とされ、同社は、こうした循環モデルを広く普及させていく方針だ。同社経営企画部では「循環モデルは、エネルギーに対して付加価値を高めることができ、地域社会へ利益を波及させることもでき、重要な意義がある」とコメントしている。